2011大会要旨09
カラーリングを付けたカワウの観察記録された個体と回収された個体の齢構成の比較
福田道雄1・加藤七枝2
(1:東京都葛西臨海水族園、2:バードリサーチ)
カワウは潜水採食性の大形の鳥で、かつては全国各地に普通に生息していたが、明治以降急速に減少し、1971年には約 3,000羽までとなった。しかし、その後は次第に生息数を回復させているため、羽数が少なくなり長い間生息しなくなっていた地域にも進出し、現在では各地の漁業関係者との間でさまざまな軋轢が生じている。今後、人とカワウが共存するためには、さまざまな調査研究やそれらに基づいた対策が必要となってきている。しかしながら、カワウの詳しい生態はあまりよくわかっていない。演者らは1989年からの14年間で約 5,500羽のカワウにカラーリングを装着してきた。そして、各地からカラーリングを付けたカワウの観察記録が多数送られてきている。そこで、記録のあった個体の齢構成を算出した。合わせて、回収された個体の齢構成も算出し比較をしたので、報告したい。
装着したカラーリングはプラスチック製(Gravograph社のGravoplyまたはRowmark社のLacquere)で、黄色と黒色の 2層になったシートを足(ふ蹠)形に成形し、黄色の上層のみを削って記号を刻印した。1989年 3月から2011年 5月までの間の59回、東京湾沿岸の東京都と千葉県内の 2〜 4カ所のコロニーで、約20日齢の巣内のヒナにカラーリングを装着した。放鳥数は、バンディング時の鳥側と人側のさまざまな条件に左右されて、148〜 630羽と年によって大きく変化していた。今回は、2011年 9月末までに集計された記録と回収データをまとめた。
観察された記録数は 5,354件で、個体数は 1,477羽(同一個体の記録数は 1〜 251回)であった。そこで、複数回の記録があった個体は、最高齢時の記録だけを用いた。また、53個体が、観察記録後に回収されたため、これらの個体は回収データとして扱った。そのため、1,424個体の記録を集計した。一方、回収は 283件あった。そのうち93件は、そのコロニーで以前に装着したカラーリングをバンディング中に回収したもので、集計から除いた。また、保護後に観察記録された個体が 4羽いたので、これらは回収記録から除いた。したがって、 186件の回収データを集計した。
まず、記録と回収された場所の分布をみた。共に、南関東を中心に分布していたが、あまり重複していなかった。これは、記録データがカワウの観察されやすい公園などの場所で多く、回収データが有害鳥駆除や漁具による混獲などがされやすい場所に多かったためである。
齢の変化は、加齢と共に個体数が放物線状に減少していて、共によく似た傾向を示した。カワウで回収データから個体群の齢構成を推定した報告があるが、カラーリングの観察記録データを用いても個体群の齢構成を推定できる可能性が示唆された。