2011年大会講演要旨08
新潟県長岡市と福井県敦賀市の標識調査におけるノジコの移動性について
渡辺央*・五十嵐伸吾・横山美津子・杉林澄人・吉田一朗
ノジコ(Emberiza sulphurata)は、日本でのみ繁殖が知られているホオジロ科の小禽で、主として東北から中部地方にかけて繁殖し,冬期は中国東南部やフィリピンなどに渡り越冬する(環境省2002)。ノジコの渡りについての様相は、本種が局地的な分布をすることもあってか、全国的に捕獲される地域や捕獲数が少なく、その移動性を解析するまでにはいたっていなかった。そんな中、福井県敦賀市の中山間地にある中池見湿地で2002年10月に200羽を超すノジコが標識放鳥された(2005
吉田)。中池見湿地におけるこの成果を受けて、新潟県長岡市でも2004年度から隔年ではあるが5年間にわたって場所を変えながら中山間地のヨシ原で標識調査を行ったところ、いずれの場所でも過去の信濃川河川敷での標識調査では記録にない多くのノジコが捕獲された。つまりノジコは、秋の渡りの時には信濃川河川敷など平野部のヨシ原より中山間地の放棄水田跡などに形成されたヨシ原を主に利用することが明らかになった。また、移動の最盛期は10月上旬から中旬にあり、アオジやカシラダカより早いことがわかった。両地域でノジコの移動性(移動時期など)が明らかになるにつれ、その後の標識調査では両地域とも放鳥数が増加し、中池見湿地では2009年度に622羽(網6〜10枚、実施日数17日))、2010年度には1,341羽(網13枚、実施日数22日)を放鳥している。一方長岡市でも2009年度から新たに東山山間地に場所を変え、浦瀬町で623羽(網8枚、実施日数9日)を放鳥し、2010年度は比礼に場所を変えて806羽(網11枚、実施日数19日)を放鳥した。
両地域の放鳥数が増加してきた中で、2010年10月7日に長岡市比礼で放鳥したメス(幼鳥)1羽が、1週間後の10月14日に中池見湿地で再捕獲された。この1羽の移動の事実から、両地域における2010年度の日別新放鳥数を対比した結果、両地域とも第1回目のピークと2回目のピークがある2峰型を示し,その2つのピークは、いずれも北に位置する長岡市比礼で早く、約348km南に位置する中池見湿地で1週間遅かった。
長岡市と敦賀市におけるこれまでの標識放鳥数を見る限り、両地域がノジコの秋の渡りの中継地あるいは通過地域であることは明らかである。しかも両地域における日別放鳥数の消長を検討すると、長岡市から敦賀市に向かう日本海側の渡りルートが想定される。今後もノジコの移動性についてのデータを蓄積すると共に、日本海側における他の地域での標識調査も期待したい。