2011大会講演要旨07

             コジュリンの外部形態の変異と変化,福島潟での事例

          千葉 晃(日本歯科大学新潟生命歯学部)

【目的】コジュリンEmberiza yessoensisは、日本を含む東アジアに局地的に分布するホオジロ科鳥類の1種で、国の絶滅危惧U類に指定されている。本種の国内繁殖地は青森県仏沼や茨城県霞ヶ浦周辺など数か所に限られ、繁殖や移動に関する情報もまだ少ないようである。本種の外部形態は、これまで分類学的観点から記載されており、近年は標識調査で得られた知見も加えて紹介されている(茂田,1992)。しかし、情報はまだ十分とは言えず、個体変異、地理的変異、成長や加齢に伴う変化等について、さらに収集が必要と思われる。筆者は、福島潟(新潟市北区)における本種の生活史解明を目的として、2009年から野外調査を開始し、昨年の本大会では標識調査に基づく生活史の一端を報告した。今回は、羽装を中心に外部形態に関する成鳥の個体変異、季節的変化、雛の成長に伴う変化について調べたので、それらを報告する。

【方法】標識調査は所轄官庁の許可を得て20104月下旬から開始し、主に早朝(午前4時〜8時頃)囀りの聞かれる草地を中心にカスミ網(ATX)27枚を設置し、捕獲を試みた。捕獲個体は、すべて金属リングと共に色足輪を装着し、個別に計測と写真撮影を行い放鳥した。そして、再捕獲と野外観察を繰り返し、外部形態に関する情報を収集した。

【結果】2009年の予備調査では、福島潟の北側沿岸に広がる放棄水田を中心に2025羽の雄が分布していることが判明した。河川改修に伴う土木工事や植生遷移に関連して個体数の増減が認められるものの、2010年及び2011年も同地域で繁殖を続けていることがわかった。2010年(4月末~9月下旬)の調査で巣内雛を含む75羽(新放鳥54羽、再放鳥21羽)を、また、2011年(4月初〜9月中旬)の調査では同じく84羽(新放鳥37羽、再放鳥47羽)を捕獲した。新放鳥された成鳥の数は雄に偏って多く、2010年は34羽中26(76.4%)が、また、2011年は13羽中10羽(76.9%)が雄であった。2010年に新放鳥され、翌年(2011)繁殖地に戻ってきた雄成鳥は50%で、雌成鳥も同率(50%)であった。本種の羽装は明瞭な性的二型を示すが、調べた体サイズ(翼長、尾長、フショ長、嘴峰長、体重)のうち性差の明瞭な部位は翼長だけであった。20114月に捕獲された雄成鳥の外形を比べた結果、冬羽の個体はごく少なく、大半は頭部に黒色が目立ち始めた夏羽への移行段階にあった。しかし、その進行程度は0歳と1+歳で比べた範囲では年齢と無関係のように思われた。また、嘴の色に関しても同様であった。同一年内繁殖期間中に複数回撮影もしくは捕獲された同一個体の外形を比べると、頭部は摩耗により黒色に変化し、風切羽や尾羽では摩耗と褪色が明瞭であった。摩耗は雨覆でも明瞭であった。9月末になると雄成鳥では換羽が始まり、黒色の嘴は肉色に変わり、頭部には褐色の冬羽が認められるようになった。一方、4~5月に捕獲された雌成鳥の外形(頭部の羽色と嘴の色)を比べると、頬の褐色部の濃淡やバフ色の眉部の目立ち易さ等に個体変異が認められ、5+歳の雌では若齢の個体より頬や顎線がより暗色で、加齢による変化を示すものと推察された。なお、この個体では、春から夏にかけて頭部の暗色化が進み、雌でも摩耗による冬羽から夏羽への変化があるものと判断された。当日は、巣立ち後の幼鳥の羽色の変異や変化を写真で紹介し、幼羽から第1回冬羽への変化が9~10月に起こることを報告する。


戻る