2011講演要旨6
ヨタカの渡り解明プロジェクト(中間報告)
ヨタカの渡り解明プロジェクトチーム(○深井宣男)
ヨタカCaprimulgus indicusはインドから東南アジア,中国東北部,ウスリー,日本にかけて広く分布する.日本へは夏鳥として,亜種ヨタカC. i. jotaka が北海道,本州,四国,九州に渡来し繁殖する(日本鳥学会 2000).本種は夜行性であるため,生態には未解明の部分が多く,特に渡りに関しては情報が少ない.演者らは,本種の主に秋の渡りを解明すべくプロジェクト調査として申請し登録された.現在18名が参加し,北海道から鹿児島県まで18ヶ所の調査地で2010年と2011年に共同調査を実施した.ここではその概要を報告し,調査方法やまとめ方について会場からご助言いただくとともに,プロジェクト調査への参加をお願いしたい.
調査方法
通常の標識調査と同様の方法でカスミ網を高めに設置し,本種の特徴的な声を再生して誘引した.夜間調査であるため,各調査地で各調査者の都合に応じて,無理のない範囲で実施した.そのため,日没から翌朝まで連続して調査できた調査地もあれば,日没後数時間と日出前数時間,またはその片方のみ実施した調査地・調査日もあった.この2年間に延べ308晩(日付をまたいでも1晩とした)の調査を実施した.調査結果は,調査日,調査時間帯,捕獲時刻と捕獲数・性・齢・換羽状態,捕獲以外の観察個体数,網の種類・枚数・設置高,天候,月齢などを記録した.また,専用のメーリングリストを利用して情報交換や意見交換をおこなった.
結果および考察
この2年間に,合計50個体のヨタカが捕獲され,延べ47個体が観察された.この中には春の渡り,繁殖地での記録も含まれるため,秋の渡りと考えられる8月以降の記録に絞ると,捕獲45個体,観察44個体であった.捕獲および観察は8月下旬から始まり,11月上旬まで続いた.最も早い記録は和歌山県西山の8月21日,最も遅い記録は京都府宇治川の11月10日であった.記録された期間は,岩手県,栃木県,神奈川県,京都府,大阪府,和歌山県で9月から10月を中心に1ヶ月半以上におよんだ.渡りの時期に関しては,性差(♂=20, ♀=23)はみられなかったが,成鳥(n=5)は幼鳥(n=38)よりやや遅い傾向が見られた.記録された時刻については,22時〜翌3時頃までの調査数が少ないため単純には比較できないが,日没後22時頃までの記録が多く,深夜や未明の記録は少なかった.天候や月齢など,明るさと捕獲・観察数には明確な相関はみられなかった.
調査地点や捕獲数が少ないため,詳細は不明であるが,本種の秋の渡りは比較的長期間におよぶ「だらだらした渡り」の傾向がある.これは成鳥・幼鳥とも捕獲時の脂肪量が少ない(深井個人観察)ことから,脂肪を貯えて一気に渡るのではなく,栄養を補給しながらゆっくり渡るタイプなのではないかと考えられる.渡り時期に齢による差があるのは,換羽様式と関係があると考えられる.本種の幼鳥は風切を換羽せずに渡りを開始するが,成鳥は外側数枚の風切を換羽してから渡りを開始する.このため,成鳥は渡りの時期が後へずれている可能性が考えられる.今回の調査では,最も早かった記録は和歌山県西山の8月下旬であった.その他の地域ではいずれも9月上旬から記録されており,なぜ和歌山県が早いのかは判らなかった.繁殖地との位置関係や渡り経路との関係,あるいは地域によって渡り開始時期に差異があるのかなど,いくつかの可能性が考えられた.8月中に記録が得られた岩手や栃木での過去の記録も含めて解析予定である.
今後の課題
この2年間の調査では,まだ調査地が不足している.ぜひ他地域での調査協力をお願いしたい.捕獲努力をする調査地が増えることで,Rcが得られる可能性も高まる.また,標識調査データの利用を申請し,過去の記録も含めて解析をおこないたい.捕獲方法についても改善の余地がありそうなので,経験交流を図り,捕獲効率を高めたいと考えている.