山中湖 謎のクロツグミ
齋藤勝義(山中湖ワールドバンダーズ)
山中湖では繁殖期を中心に毎年標識調査を行なっている。捕獲される鳥種のなかで優先種の1種であるクロツグミは、毎年平均60羽(2005年〜2009年)の放鳥がある。山中湖は夏鳥であるクロツグミの繁殖地であるため、繁殖期には成鳥個体と共に、前年生まれの第一回夏羽個体や、今年生まれの幼鳥も捕獲することができる。
一般に個体の年齢査定は、換羽の進行に伴う幼羽の有無(GC斑など)や頭骨の骨化、虹彩色などを用いて判別が行なわれる。クロツグミに於いても成鳥と幼鳥の識別では、GC斑の有無や尾羽の形状、虹彩色、頭骨の骨化は有効かつ重要な識別点である。成鳥と第一回夏羽の識別では、頭骨の骨化は使えず、虹彩色もその違いは僅かか、ほとんどないため、重要になるのがGC斑の有無や尾羽の形状である。通常クロツグミは幼羽から第一回冬羽への換羽で、大雨覆の内側数枚を換羽し、外側数枚の幼羽を残す。それは翌年の夏まで残るため、第一回夏羽個体の齢判定はGC斑の有無を確認すれば容易である。同様に尾羽も換羽しないので、第一回夏羽個体では幼羽のままである。
しかし近年山中湖の標識調査に於いて、この識別方法が使えないクロツグミが存在することが判明した。具体的には幼羽から第一回冬羽への換羽で、大雨覆と尾羽のすべてを換羽してしまい、羽衣による年齢判定が難しいのである。当然、頭骨の骨化や虹彩色は識別に有効な手段ではあるが、このような換羽を行なってしまう個体がいるとは想定外のことであった。また山中湖でクロツグミが多く捕れる時間帯は日没前後であるため、識別やリング付けの作業は照明光の下でとなり、その違いに気付きにくい状況にあった。
この『謎のクロツグミ』は毎年0羽〜3羽(2005年〜2009年)捕れているが、繁殖期間中にはあまり捕れず、渡りの時期にあたる9月から10月に捕れるため、山中湖周辺で繁殖しているクロツグミではなく、渡りの途中に山中湖を通過する個体ではないかと考えられるが、まだデータも少なく結論は今後の調査結果を待ちたいと思う。