キビタキFicedula narcissinaの第一回夏羽における雄の個体差
○岡久雄二(立教大・理),森本元(立教大・理),高木憲太郎(バードリサーチ)
キビタキは第一回夏羽への換羽が部分換羽であって風切羽のほとんどを換羽しない.この部分換羽は野外観察でも容易に知ることができ,個体差が明瞭であると述べられている(初野2008).また,亜種リュウキュウキビタキにおいては幼羽から成鳥羽になるのに3年以上掛かると述べられており(茂田
1991),繁殖集団ごとに換羽の変異が異なる可能性が考えられる.しかし,同所的な繁殖集団内で第一回夏羽の個体の換羽にどのような個体差があるかについては知られていない.そこで本研究では2010年に山梨県の青木ヶ原樹海に設けた調査地内に渡来した個体を捕獲し換羽を記録・各部を計測することから,同所繁殖集団内での第一回夏羽における雄の個体差について調査した.また,第一回夏羽の個体の旧羽を計測することで,幼羽と成鳥羽の計測値の差異および性差を明らかにした.
―換羽の個体差−
尾羽:全てを換羽していた個体は90%,一部のみ換羽していた個体は5%,全てを換羽していた個体は5%であった.
風切:いずれの個体も初列および次列風切は換羽しておらず,三列風切は内側から43%,30%,25%が換羽しており換 羽には大きな個体差が認められた.
大雨覆: 6-8枚を換羽している個体が多く,最も内側の1枚は全ての個体で換羽していた.外側の大雨覆の換羽は順不同であり,個体によって異なっていた.いずれの個体も風切羽の換羽とは対応しておらず換羽は独立的に行われていた.
体羽:後頭部の幼羽が頭頂より前方まで残っていた個体は12%,頭頂よりも後方であった個体が88%であった.
喉の色:大きな個体差が認められたが成鳥の値と重複しており,第一回夏羽であるために生じる個体差は特にないと考えられる.
―計測値−
第一回夏羽に残る風切の計測より,最大翼長・自然翼長ともに第一回夏羽の個体とその他の個体に差異が認められたが,その差は非常にわずかであった.既に換羽していた尾長は第二回夏羽以降の個体と差が認められなかった.
また,最大翼長・自然翼長について性差が認められた.今回の研究では捕獲個体数が少ないことに注意が必要であるが,第一回冬羽において最大翼長82.0mmを超えるものは雄の個体である可能性が高いと考えられ,73.5mmを下回るものは雌である可能性が高いと考えられる.翼長により性判別が可能である個体はおよそ22.4%と考えられ,第一回冬羽の個体の性判定基準として最大翼長が利用できる可能性が示唆されたが,あまり有効であるとはいえない.
引用文献
茂田良光 1991. 形態と識別 7. キビタキの亜種. Birder 5 (8) : 48?52.
初野 謙 2008. 超難関!? ヒタキ類の年齢を査定する. Birder 22(5) : 44-47.