日本鳥類標識協会大会2010シンポジウム 富士山の自然と野鳥

富士山須走口周辺の生物相と自然 〜亜高山帯を中心とした鳥類相の紹介〜

 森本元(立教大・理・研究員

 富士山は日本人であれば誰もがその山形を知っている国内の最高峰である。本峰はそのなだらかな斜面に、標高に従って低山帯から高山帯まで多様な自然環境を有しており、高い生物多様性をもつ。また国内有数の単独峰であり、周辺の山地から独立していることが地理的特徴でもある。このため、容易に植物相の垂直分布を観察できるという特性がある。また、鳥類相も植物相の垂直分布に従い、その生息域に応じた分布を示すことが知られている。このため夏季には低山性の鳥種から高山鳥までそれぞれの環境に応じて幅広い種が繁殖している。
 須走は日本のバードウォッチング発祥の地としても知られている。日本初の探鳥会は、日本野鳥の会の創設者でもある中西悟堂氏によって昭和9年(1934年)に行われた(2002年には記念碑が設置されている)。この場所は今の須走口登山道へと続く県道の入り口、富士山の麓にあたり(標高約900m)、須走の街のすぐそばである。今ではこの地域は自衛隊富士学校や演習場、県道、高速道等の開発が行われ当時とは大きく環境が変わっているにも関わらず鳥の生息数は未だ多く、オオルリやキビタキ、クロツグミ、カッコウ類等の夏鳥を観察することができる。これより標高1,000m付近までは左右に演習場が広がるため深くまで立ち入ることは出来ないが、落葉広葉樹林を中心とした景観が広がっている。また、富士山ならではの火山礫等によるガレ地が所々に点在するため、森林性の鳥類と同所的に、ホオジロやカワラヒワ等も生息していることが特徴である。標高が上がるにつれて、約1,500m程度まで夏緑樹林による山地帯が広がる。ここにはイカルやコルリ等が生息している。また、ヤマガラやゴジュウカラの繁殖域の上限でもあり、さらに高地になると徐々に山地帯から亜高山帯へと移行し、鳥類相も高山鳥へと変化する。標高2,000m前後では、メボソムシクイ、ルリビタキ、キクイタダキといった亜高山・高山鳥の繁殖域となっている。富士山の東側斜面は、富士山の中で最も森林限界が高い地域であり、標高約2,700mまで緑地が広がっている。これら森林限界周辺では、カヤクグリやイワヒバリ、ホシガラス等の高山鳥が繁殖している。また、須走口よりも南側(御殿場口)にかけて草本類が僅かに生えるのみのガレ地が広がっている。ここではヒバリとビンズイが同所的に生息するなど、(亜)高山帯であっても、環境に応じた幅広い鳥類相が存在する。森林限界以上のガレ地においては、一部の地域でアマツバメが営巣している。
 本講演では、富士山東側斜面に位置する須走口登山道周辺のこれらの生物相を、鳥種を中心に紹介する。また、演者が長年調査を続けているルリビタキ等の高山鳥の生態についても紹介する予定である。


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