栃木県那須野が原におけるケリ標識調査(続報)
-主にヒナの分散について-
栃木県大田原市 河地辰彦
1. はじめに
報告者は’06年から毎繁殖期にケリ成鳥とヒナを捕獲し標識リングと個体識別用カラーリングを取り付けてきた。
(第23回)日本鳥類標識協会全国大会・京都大会においては「那須野が原におけるケリの分散と移動」という演題で、那須野が原(4万ha)内の5ヶ所に点在している営巣地で繁殖しているケリの個体群が互いに孤立した個体群ではないことを報告した。
その後、放鳥数も増え’09年までに成鳥32羽、ヒナ12羽を放鳥した。この中には、親鳥(♂、♀)とそのヒナたち(4羽)全てに標識できた事例もあった。そして、今年の繁殖期には16羽が繁殖地へ帰還していた(帰還率36.4%)。
今回の報告は、親鳥とそのヒナたち全てに標識できた事例から、巣立ち後の親子関係について幾らか知見が得られたので報告する。
2. 調査地および調査方法
調査地は栃木県北部の那須野が原(大田原市、那須塩原市)に点在するケリの営巣地5ヶ所(4つの工業団地と1つの水田地帯)である。また、非繁殖期については観察者からの情報提供による。
調査方法は、カラーリングの色の組み合わせによる個体識別とスコープによる観察。
3. 調査結果
親鳥は毎年、栃木県那須塩原市赤田の同一営巣地へ帰還して繁殖を続けている。
◆親鳥とヒナの標識データ
性 標識番号 色足環 初放鳥日
♂ 8A27798 WT/LG 2007/4/ 1 交尾行動によって確認した
♀ 8A29266 WT/BK 2008/4/19 交尾行動によって確認した
ヒナ 8A29281 WT/MV 2009/5/10 孵化後2W?
ヒナ 8A29282 WT/BL 2009/5/10 孵化後2W?
ヒナ 8A29283 WT/PK 2009/5/10 孵化後2W?
ヒナ 8A29284 WT/GR 2009/5/10 孵化後2W?
◆巣立ち後のヒナの観察情報
WT/MV 2009/10/24 栃木県大平町真弓で単独でいるところが観察された。
2010/ 4/25 同県大田原市蛭田で抱卵中(3卵)を再捕獲
2010/ 6/ 6 同県大田原市湯津上で群れで行動
WT/BL 2009/ 7/30 同県大田原市上石上で群れで行動(親鳥はいなかった)
2010/ 7/ 4 同県大田原市湯津上で群れで行動
WT/PK 2009/ 7/11 同県大田原市湯津上で群れで行動(親鳥はいなかった)
WT/GR 2009/ 7/31 同県大田原市湯津上で群れで行動(親鳥はいなかった)
4. 考察
ヒナは、7月上旬には生まれた場所とは別の場所へ移り、群れで行動していた。群れの中に親鳥はいなかった。また、兄弟姉妹もバラバラになっていた。
非繁殖期には繁殖地から67キロ離れた場所へ現れた個体(WT/MV)がいた。この個体は親の営巣地からは離れた場所へ帰還し、営巣→産卵→抱卵(3卵)したが、途中で卵を捕食されたらしく繁殖は失敗した。
以上のことから、ケリのヒナは、7月上旬には親鳥から独立し別行動をとっている。非繁殖期に成鳥と幼鳥が一緒に行動しているのを観察することがあるが親子関係は無いと思われる。生後1年目から繁殖することから推察して、つがいの相手と一緒に行動しているのではないかと思われる。