新潟市福島潟におけるコジュリン繁殖状況と標識調査
千葉 晃(日本歯科大学新潟生命歯学部)
【目的】コジュリンは日本を含む東アジアの一部に局地的な分布を示すホオジロ科鳥類の1種で、国の絶滅危惧U類に指定されている。本種の国内繁殖地は青森県仏沼や茨城県霞ヶ浦周辺など数か所に限られ、繁殖や移動に関する情報も少なく、特に日本海沿岸における生息の様子は断片的にしか知られていない。新潟市(旧豊栄市)福島潟は日本海沿岸における数少ない本種の生息地の一つであり、佐渡の国中平野と共に新潟県内の限られた繁殖地でもある。福島潟では近年大規模な河川改修事業が進められ、これと関連して環境変化が起こり、本種の生息に適した湿性草地が広がる一方、土木工事による攪乱・減少も認められている。本種の保護を考える上で、個体数、分布、生息環境の特性、移動など生物学的基礎情報の収集は重要かつ急務と考えられる。そこで、2009年から基礎調査に着手し、標識調査も取り入れて包括的な資料収集を試みた。今回は標識調査やカラーマーキングで得た結果の一部を報告する。
【方法】標識調査は所轄官庁の許可を得て2010年4月下旬から開始し、主に早朝(午前4時〜8時頃)囀りの聞かれる草地を中心にカスミ網(ATX)2〜7枚を設置し、捕獲を試みた。捕獲された個体の多くは金属リングと共にカラーリングを付し、計測の後放鳥し、テリトリーマッピング法やタイムマッピング法により追跡調査を行った。
【結果】2009年の予備調査では、福島潟の北側沿岸に広がる放棄水田を中心に20〜25羽の雄が分布していることが判明した。2010年は土木工事のため昨年より生息適地が減少したものの、センサス調査と標識調査を組み合わせて調べた結果、約30羽の雄の生息が認められ、懸念した減少は起きていないように思われた。ただし、2009年は標識調査を併用しなかったため、雄の個体数が過少に評価された可能性が残る。今回の調査により、雄の中には、@一定場所に住み着き繁殖するもの、A定着するがペアを得られないもの(独身雄)、B定着しないものの3つのタイプが区別された。Bの非定着性雄の中には、繁殖初期に他所へ移動してしまうもの(通過雄)や遅れて渡来し定着せずに生息地内を移動するもの(フローター)が含まれることもわかった。ナワバリの範囲や維持と関係深いソングポストは個体ごとほぼ一定場所に決まっているが、環境の変化(人為的攪乱および植生の季節的変化など)やナワバリ隣接地における他個体の動向などによって変化することも判明した。巣は、2009年に6か所で発見し、2010年はこれまでに8か所で確認した。繁殖失敗(外敵による卵や雛の捕食)も多く、巣立つ雛もそれほど多くはない。調べた巣のうち、昨年は2巣から10羽、今年はこれまで2巣から9羽の雛の巣立ちを確認した。標識された雛は巣立ち後1ヶ月以内に独立し、この頃、巣場所から約1km以内を兄弟で移動している様子が観察された。営巣場所はヨシの疎生する湿性草地にあり、カヤツリグサ類やイの根元地上近くに営まれているものが多かった。なお、約1歳の雌が非同時的に2羽の雄と番い、同一シーズン内に3回営巣・産卵した例も認められた。この場合、初めの2回は同一雄と繁殖を試みたものの、2回とも途中で失敗した事例であった。標識回収例は目視による判読を含め7件(雄5例、雌2例)得られており、6例は当該地での放鳥、残る1例が静岡県で放鳥されたもので、これは新潟県と太平洋沿岸との移動を示す最初の証左と考えられる。