日本産シマアオジEmberiza aureolaの亜種の検討 
(財)山階鳥類研究所 茂田 良光

 シマアオジEmberiza aureolaは、近年減少が著しく、環境省自然保護局野生生物課(2006)の絶滅危惧種のカテゴリーでは、日本産は絶滅危惧IA類(CR)に指定されている。シマアオジは、ヨーロッパ東部からシベリア、モンゴル、中国北東部、朝鮮半島、北海道、サハリン、千島列島、カムチャツカにかけて繁殖し、インド、インドシナ、中国南部で越冬する。基亜種E.a.aureolaと亜種E.aureola ornateの2亜種に分けられ、日本鳥類目録編集委員会(2000)によれば、日本で繁殖する亜種は、亜種シマアオジEmberiza aureol ornateである。
 しかし、日本鳥類学会(1932)の改定日本鳥類目録および山階(1934)は、日本で繁殖する亜種は、基亜種シマアオジE.a.aureolaであるとしており、亜種E.a.ornateの亜種和名をチョウセンシマアオジとしている。その後、日本産シマアオジは亜種E.a.ornateとなった(日本鳥類学会、1942,1958,1974)。どうして日本産のシマアオジの亜種が基亜種でなく亜種E.a.ornateとなったのか、また、日本産のシマアオジの亜種は、亜種E.a.ornateとするべきなのか、ここでは文献および主に山階鳥類研究所の所蔵標本からこの2つの説の検討の試みることにする。
 Hartert(1932)は、シマアオジに4亜種を認め、日本産を亜種E.a.ornateとしている。Kozlova(1932、Ibis,p.74)は、冬至、4亜種に分けられていたシマアオジのうち、2亜種、E.a.suschkiniE.a.kamtschaticaをそれぞれ、基亜種E.a.aureolaと亜種E.a.ornateのシノニムとして2亜種だけ認めた。日本鳥類学会(1942)、Dement’ev and Gladkov(1954)、Vaurie(1956,1959)、Byers,Olsson, and Curson(1995)以後はArmani(1985)をのぞき、この説に従い、日本産シマアオジは亜種E.a.ornateとして扱われている。ただし、両亜種の分布はカムチャツカの文献により異なるところもある。
 山階鳥類研究所にはシマアオジの標本は、ロシア4、北海道8、サハリン50、北硫黄島1、中国東北部34、朝鮮半島11、ベトナム1、インド1、不明1の合計111個体が収蔵されている。本種の羽色は性・齢と季節により変異が著しいので、オスの成長・夏羽だけを選び北海道5、サハリン28、中国東北部7、朝鮮半島6の合計46個体の標本を対象に羽色を調べることができた。
 山階(1934)、Vaurie(1956)などが亜種E.a.ornateの識別点とする頭上、背、および脇の黒色の縦班の有無と程度、また、胸帯の黒色の有無の程度について調べたところ、中国東北部産と朝鮮半島産の標本は、頭上、背、脇の黒色の縦班が顕著にあり、また、胸帯に黒色がない個体はなかった。一方、北海道産の5個体のうち、3個体には頭上に黒色の縦班はなく、2個体には胸帯にも黒色はなかった。背の黒色縦班は1個体でなかった。この結果からは、北海道産のシマアオジは基亜種と考えられた。サハリン産の28固体のうち、23個体も基亜種と考えられたが、5個体については両亜種の中間であった。標本数が少ないので、DNA解析を含む再検討が必要であろう。
 本調査の標本の閲覧については、山階鳥類研究所自然誌研究室および今村友子、亀谷辰郎の両氏にご協力いただいた。記して感謝の意を表する。


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