海鳥の生態と渡り 私の海鳥研究小史 講演要旨
   小城春雄(北海道大学名誉教授)


 鳥類に興味を持つ人達や鳥類を研究している人達にとってどうしても知りたいことがある。それは鳥類の「絶対年齢」である。鳥類の生物学、それも特に生態学の分野では、この「絶対年齢」が分からないために他生物と比較して研究を深めることができないというジレンマがある。生化学的には加齢に伴う遺伝子の劣化過程を追跡すれば何とか判明するのではないかといわれているが、とても簡便に行える方法ではない。標識調査に従事している方々に窺うと、ウミネコですら外部形態から亜成鳥と複数の人達が判定したにもかかわらず、標識をたどってみたら何と生後7年目であった事実があった。もし、簡便で正確な「絶対年齢判別方法」を開発できればノーベル賞ものだと密かに考えていた。私も密かに何とかならないものかと以下のような試みをした。
(1)骨格の何処かに年輪構造がないだろうか? 
 ある種では下肢の関節近くに層状構造があったがふ化後3〜4年追跡できたが不正確であった。
(2)重金属の蓄積量はどうだろうか?
 これも個体差や地域差が大きく、かつ高年齢になると減少する例もあり駄目であった。
(3)有機塩素化合物の蓄積量ではどうだろうか?
 尾腺から分泌される油に混じり常時排泄されているので年齢との相関がなかった。また、生息する海域の汚染濃度が反映されていてだめであった。
(4)生涯生きている脳や心臓の細胞内に蓄積される過酸化脂質(リポフスチン)の量はどうか?
 類人猿では年齢とリポフスチンの蓄積量に綺麗な正の相関関係が見出されていた。でも鳥類では何の関係も見出されなかった。 恐らく多くの研究者が既に試していたのであろう。

 結局巣立ち直前に標識として脚環を装着することに勝る「絶対年齢」の判別法は今だにないようです。ただし先端技術の利用により、おもいもかけない方法を模索できる時代となっているのではないでしょうか。超小型化したICチップを脚環に埋め込み、飛翔中の集団でも個体識別でき、その情報を取得できる時代となったのではないでしょうか。海鳥類やアマツバメ類にそんな脚環を装着する試みがあっても良いと考えます。
 標識を装着する作業に従事している方々に、もし海鳥に標識すればこんな問題点が新たに解明できるというヒントを提供するために以下のような項目で御話します。
1.ハイイロミズナギドリとハシボソミズナギドリ、そしてウミガラスとハシブトウミガラス等の同属種の北太平洋での生活。
2.オホーツク海の海鳥分布の特性。
3.マダラシロハラミズナギドリの北太平洋における季節的分布。
4.利尻島で繁殖するウミネコ卵の卵重量から見た抱卵過程。
5.渡島大島のオオミズナギドリの現状。

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