2008年日本鳥類標識協会第23回大会(2008年12月13日京都御室会館)における講演要旨
論文紹介『広川ほか(2003)北海道西部におけるオオジュリンの帰還調査』
脇坂英弥
本講演は、広川淳子氏らによって実施、発表された下記研究論文の内容を著者の了解を得て紹介するものです。なお、本要旨は著者の了解を得て論文から抜粋して作成しました。
● 広川淳子・浜田強・樋口孝城(2003)北海道西部におけるオオジュリンの帰還調査.
山階鳥学雑誌 第35巻1号: 45?51. [通巻No.109]
はじめに
オオジュリンは旧北区に幅広く分布し、日本では北海道および東北地方で繁殖する。冬期には本州以南に南下する。湿地帯とその周辺の草原に生息し、繁殖地でのヨシ草原を主たる営巣場所とする。標識調査によると、北海道で標識・放鳥された個体は本州以南、鹿児島県に至るまで、日本海側、太平洋側の各地で回収されており、いくつかの南下ルートがあるものと考えられる。最終的な越冬地は日本の南西部およびさらに南方となるが、特定の地域に集中するかどうかは不明である。
北海道石狩地方には4月中旬以降に本格的に渡来し、ほぼ5月下旬から7月下旬の間に2回の繁殖を行う。北海道に夏鳥として渡来し繁殖を行う鳥種はかなり多いが、それらの中でも、ノゴマ、ノビタキ、アオジ、オオジュリンなどは、北海道を主な繁殖地としている鳥の代表的なものである。近年、著者らは石狩市においてそれらの鳥の標識作業にあたっているが、特にオオジュリンについては、個体数が多いこともあって、作業を通じて様々な知見が得られてきている。今回はその中から、繁殖地への帰還(リターン)状況について得られた結果を報告する。
要約
1997年から2002年の繁殖期(4月1日〜9月10日)に北海道西部においてオオジュリンの帰還率を調査した。調査期間中に標識・放鳥したのは成鳥508個体、幼鳥411個体、巣内雛639個体の計1568個体であった。
1年後に再捕獲されたのは150個体であったことから推定最小帰還率は9.57%となった。以降、推定最小帰還率は年を重ねるごとに低下し、4〜5年後には1%以下となった。齢別の1年後の帰還率は成鳥14.37%、幼鳥10.22%、巣内雛5.48%であった。また成鳥の雌雄間には帰還率に違いがなかった。
調査終了にともない全ての帰還個体が捕獲できていないので、真の帰還率は今回の推定最小帰還率よりも高いものと推測される。
戻る