シンポジウム「再捕獲でわかった事、わかる事−鳥類生態解明におけるRp,Rt,Rcの役割−」

総合討論
(シンポジウム後にやりとりした内容も含めて構成) まだ作成中


1 各講演への質疑やコメント
(1)深井宣男 Rtの効用 −齢の識別点の発見 〜ヨタカ・オオコノハズク・アオバズク−
質疑・コメント:
深井 教訓としてこの方法の留意点をまとめる。 
  ・識別点の予想をたてることが重要→どこを撮ればよいかをあらかじめしぼる。
  ・多くの個体の撮影。その際に決められた部位のきれいな写真を短時間で撮る→鳥への負担軽減、「使える」記録となる。
  ・成果を公表し、共有する→知識の共有、正確な識別、無駄な負担を省く。網場により多くとれる種があるだろう。
   ヨタカについては標識協会誌に発表した。フクロウ類は山口大会で発表した。
川路 深井さんの発表で、成鳥の捕獲が極めて少なく、幼鳥がほとんどだったのは、どういうことか? 成幼の渡りのコースが違うとか、成鳥が捕獲しにくいとか、オオジュリンも生産量以上に幼鳥が捕獲されたりしているようで、そのようなバイアスはどうだろうか。
深井 音声誘因で捕獲率に差があるようだ。個体群構成などを知るには捕獲率の差を知らなければならないが難しい。
川路 では捕まった成鳥はどういう個体か。
深井 ますます難しい質問。なれてない(どんくさい)個体だったのか。捕獲されやすい個体か、複数回再捕されている。
茂田 幼羽はないのか。
深井 体羽は換羽しているが、フクロウ類も含め頭部に一部幼羽が残り第1回冬羽と判断した。 
(2)森本元 鳥類における色彩と機能 −ルリビタキにおける事例を中心に−(Rp, Rtにより解明されたルリビタキの羽色変化)
質疑・コメント:
井戸 森本さんは、結局雄雌をどのように確認したか。
森本 採血してDNA分析で判断した。
(3)清水敏弘 秋期におけるメボソムシクイの体重変化
質疑・コメント
北川 清水様だけへの質問というわけではないが。通過する夏鳥が滞在するということを想定していなかった。天竜川でシベリアジュリンを標識した数日後リピートがあったので越冬と感じたが、通過個体と滞在(越冬)個体などの判断についてはどうすればよいだろうか。
清水 個体ごとに違う可能性がある。矢作川を栄養補給につかう個体もあると考えたが、そうでない個体もいると思う。
(4)古園由香 鳥の重さを量ってみれば
質疑・コメント:
須川 古園様への質問でなくコメントとして参加者に聞きたい。越冬地で古園様の調査では、早朝の体重測定値など、厳冬期に重くなる点について、解釈が可能な調査がされている。私は寒い冬に重くなるという文献を読んだことがある。だとすると、明らかになった年度による体重の違いも年による気温で説明できるかもしれない。越冬地でそのような調査例がある、あるいは研究例があるならば紹介してほしい。

(5)脇坂英弥 論文紹介『広川ほか(2003)北海道西部におけるオオジュリンの帰還調査』
(6)福岡賢造 大阪府河内長野市のツバメ Hirundo rustica のリターン記録について
質疑・コメント:
武下 福岡様はどのように商店や民家の家主さんの理解を得るのか。私の場合は10軒のうち8軒は断られる。
福岡 最初に新しくする場合は説明して大丈夫だが、時々だめという家がある。あらかじめの説明にコツがある。自然にも雛がおちることがあることを説明しておくことと、今まで判った資料を配って説明しておくことが大切。
(7)須川恒 個体群特性解明のための再捕・再確認情報活用例(ユリカモメ・オオミズナギドリなど)

2 全体のまとめ
梶田 ここで本日のまとめをする。
   再補数は Rp>Rt>Rcである。
 再捕獲の個体の重要性は同じ個体の情報がとれるという点が重要である。
 羽色の変化、体重の変化、また番い関係の発表があった。それ以外にも測定値の変化は明日本間様のカモ類についての発表がある。
 また光彩の色や換羽などを追うことも可能である。
 個体数の推定や密度、帰還率の話もあった。
 滞在率の話はなかった。渡り鳥の滞在率で重要性を評価することができるのではないだろうか。
 
梶田 渡りの時期に2日間の調査、滞在率=翌日のRp(m)数/1日目の標識数(M)で重要度が評価できないか。
須川(だいぶ考えてからの回答) 
 梶田様の提案の滞在率について
 (移出入のないピーターセン(リンカーン)法のモデルで考えると梶田様の提案した滞在率は、個体群中の翌日の
捕獲率をあらわすことになり、滞在率とはならない。
 この周辺にいる個体数をNとして、初日の標識数をMとする。翌日n個体捕獲してm個体にマークがついていた(Rp)とすれば、
 N:M=n:m (M/N=m/n Mn=Nm) つまり m/M= n/N である。 翌日のRp数m/1日目の標識数M=翌日の捕獲数n/(出入りがないと仮定して両日の)個体数Nを意味する。 つまり滞在率はあらわさない。
 滞在率というのは、移出が少ない場合に大きく、移出が多い場合は小さくなる(新規個体の加入は問題としないとして)。移出入はJOLLY法を使わないと実態が明らかにできない。JOLLY法で個体数推定をするためには最低3日が必要で、移出入を知るためには最低4日(間の2日間の個体数推定ができ、その間の移出・移入が判明する)の調査が必要である)。  
 須川案としては、最低4日間の調査で滞在率を明らかにする。4日間調査をすれば、JOLLY法によって2日目の個体数N2と3日目の個体数N3が出てくる。またN2のうち2日目と3日目の間の移出数OUT23、と移入(加入)数IN23が出てくる。
滞在率=(N2-OUT23)/N2*100  である。
 では4日間調査をして、どのようにすればこの値が計算できるのか。
 4日間調査すれば、以下の捕獲履歴パターンが得られる。それぞれのパターンの個体数が判明すれば計算できるはず。
  1234日目の捕獲
  1111 → 1日目に標識して毎日再捕獲されたという個体
  1110
  1101
1100
1011
1010
1001
1000 → 1日目に標識してその後は一度も捕獲されていない個体
0111
0110
0101
0100
0011
0010
  0001 
  (この内容については、その後、澤祐介様がエクセルに入力すれば計算できるマクロを作成し、井戸浩之様が自身のアオジの越冬調査結果をあてはめての滞在率の計算を行なった。今後発表予定。)
須川 古園様の調査へ出したのコメントについて、詳細は以下。
 越冬厳寒期に一番重くなるというのはウソの体重についてNewtonがFinchの本に書いていたという記憶があるが、私は持っていない。
 Google scholarで調べると以下の文献らしい
 Newton, I. 1969: Winter fattening in the Bullfinch. Physiological Zoology 42: 96-107.
 直接この文献は出てこないが以下の論文にに引用されている。
 http://linnut.fi/julkaisut/of/pdf/vol83-3/5Hogstad.pdf(これは全文読める)
 http://www.jstor.org/pss/3545828 要約だけ読める。寒い冬の夜にむけ必要なだけ採食するということが書かれている。
 古園様のデータは早朝計ったデータだと真冬でも低いレベルになっていた。またFATランクも記録しているが、越冬中期に重くなることと対応してFATランクが上がることはなかったそうだ。つまり寒い夜に向けて大量に採食することにより昼間の体重は増加するが夜間に消費されてしまい早朝には季節的には変化のない最低体重が記録されることになる。
 早朝のデータやFATランクをあわせ記録することで、体重増加の意味を議論することができるだろう。

梶田 ではこれで終わります。発表者の方に拍手を・・(拍手
)

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