再捕獲でわかったメボソムシクイの体重変化

清水 敏弘(日本鳥類標識協会・西三河野鳥の会)


 長距離の渡りをする鳥は、飛行に必要なエネルギー源を皮下脂肪の形で体内に蓄えることが知られている。日本では、チョウゲンボウやシジュウカラの冬季における体重変化について報告されているが、長距離の渡りをする鳥種についての調査報告は見られない。
 メボソムシクイは、夏鳥として主に本州の高山地帯で普通に繁殖する。越冬地は詳しく知られていないが、標識調査によって中国上海近くで回収された例があり、中国南部以南から東南アジアであると示唆されている。
 筆者は、1989〜1996年8〜12月、愛知県岡崎市の矢作川河川敷(下佐々木町)で標識調査を継続実施してきた。その中で、渡去直前のメボソムシクイについて、再捕獲個体29例の体重変化に関する知見を得ることができた
 この期間のデータをまとめると、捕獲し体重測定できた150個体の体重は、8.9〜18.7gで平均11.6gであった。また、8年間で最も早い捕獲日は9月19日、最も遅いのは11月14日で、約2か月間にわたって渡りが続き、ピークは10月の上旬と下旬に見られた。各月を10日ごとに区切って平均体重を比較すると、渡り期間の後半になるにつれ、増加していく傾向がはっきりわかる。明らかに越冬地への渡去を目前に控え、当地で盛んに餌を取り体力を蓄えていることが推察される。
また、放鳥した155個体のうち再捕獲(Rp)は30個体あり、捕獲率は19.4%に達した。10羽に2羽は再捕獲される事実から、メボソムシクイの河川敷環境への依存度がかなり高いといえる。さらに、体重測定できた29個体の初捕日から再捕されるまでの経過日数と体重の増減を分析すると、初捕後、1〜3日後に再捕される個体は体重が若干減少(-0.2〜-1.0g)する傾向にある。これは当地に飛来して間もない個体で、体力を消耗しきっているからではないかと考えられる。一方、初捕後5日以上経過してから再捕された個体のほとんどは、顕著な体重の増加(+0.4〜+6.4g)が見られた。この結果から、当地を渡りの中継地として利用しているメボソムシクイの多くは、ここで渡りに必要なエネルギーの補給を重点的に行っていることがわかる。
比較のために、同じ調査地で得られたモズの体重変化を調べてみると、1993年10月9日に捕獲した体重37.6gの個体(♂J)は、12月5日までの間に9回再捕されたが、-0.9〜+0.8gの増減を繰り返しているにすぎなかった。また、再捕された83個体の体重変化と再捕されるまでの経過日数を分析したが、メボソムシクイのような顕著な傾向はまったく認められなかった。長距離の渡りをする鳥種との違いを感じさせる結果である。
今回の継続調査で、最長で20日間も当地に滞留している個体の存在が明らかになり、再捕獲できた30個体全体でも平均7.2日の滞留期間があることがわかった。この結果から、河川敷の環境はメボソムシクイをはじめとする渡り鳥にとって、生命維持のためのかけがえのない場所であることを物語っている。さらに、経験的・概念的にはすでに理解されている内容でも、標識調査によって得られるさまざまな記録(特に、再捕獲に関するデータ)を詳細に分析することにより、そのことが理論的に裏付けられれば、今後何らかの指標として活用できることが期待される。


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