鳥類における色彩と機能 〜ルリビタキにおける事例を中心に〜

森本 元(立教大・理 / 東邦大・東京湾生態系研究センター)


 本発表では、鳥類の色に関する視覚・生態・形態に関する話題を広く提供する。鳥類の鮮やかな色彩の存在は、多くの科学者を魅了してきた。鳥における"色"の問題として、色彩の性的二型や年齢に伴う色の変化などの形態上の問題や、色が個体間の信号として機能する生態上の問題などが存在する。こうした学術的な焦点は、これまでだけでなく、現在も盛んに多くの研究者によって研究されている。具体的には、オスの鮮やかさを利用してメスがつがい相手を選ぶ「選り好み」や、個体間の順位や採食時の探索など、色は様々な形で生物に利用されている。昨今、鳥類は我々人間以上に敏感な色覚を有しており、非常に多くの情報を視覚から得ていることが明らかになってきた。
 鳥類の多くは我々人間よりも広い波長の色を見ることが可能である。鳥の分類群・種による違いはあるものの、多くの鳥種が人間には見ることが出来ない近紫外線を知覚できる。また、我々人間が3原色に基づいて色を認識するのに対し、鳥は4原色に基づく色空間をもつ。このため、鳥が見ている色情報は我々が見ているものよりもはるかに多い。鳥はこの多様な色情報を様々な形で利用している。
 鳥類の色彩は、主にカロチノイド色素由来の色・メラニン色素由来の色・構造色の三つにわけられ、それぞれの色の発現メカニズムは異なる。色彩の問題を考える上では、この点を考慮することが重要となる。鳥の色の濃淡といった形態上の問題を扱ううえではもちろんのこと、生態的な機能を考えるうえでも、色発現の起源の違いを考慮する必要がある。本発表では、こうした鳥の色覚や色の機能についての概要と共に、いくつかの実証研究を紹介する。既存の研究から、猛禽類が餌であるネズミを発見するために紫外色を利用していることや、我々人間には雌雄同色に見える鳥種であっても、紫外色領域では、実は性的二型が存在することなどがわかっている。
 また、構造色の研究例として、著者らが行っているルリビタキTarsiger cyanurusにおける研究結果を紹介する。本種のオスの外観は、年齢に伴って構造色ではないオリーブ褐色から、構造色である青色へと変化する。本種は一夫一妻であり、本州では亜高山帯以上の地域において繁殖を行う。多くの鳥種と同様に、本種も繁殖地に越冬地より渡ってくるため、標識を行うことによって繁殖地における同一個体の経年的な観察が可能となる。本発表では、個体識別と反復観察によるルリビタキの生態研究および、ルリビタキの色彩を中心とした形態上の詳細な特徴や、反復観察データに基づく色彩の変化について紹介する。また、ルリビタキの生態に関する研究結果として、なわばり雄同士の闘争に関する研究結果を紹介する。ルリビタキの雄同士の争いでは、なわばり争いの闘争相手が自分自身の色(青またはオリーブ褐色)と同色かどうかによって、闘争の激しさが異なっていた。同色個体同士が争う際は激しく争うが、異なる色同士の闘争では同色時ほど激しく争わないことが多かった。この結果は、ルリビタキが色を視覚信号として利用し、闘争相手と自分自身の地位の違いによって、過剰な闘争を回避している可能性を示唆している。
 他にはルリビタキの性・年齢に関連した色彩の違いについて形態的な研究結果を紹介する。色を評価する手法は様々であるが、以前より行われている最もポピュラーな手法として、カラーチャートなどの指標を用いて鳥の各部位の色彩を点数化・カテゴリー化する方法がある。また、近年では、色を定量的に評価する手法や機器も発展してきた。例えば、色彩計を用いることで色を量的に評価する手法や、分光光度計を用いた測定手法等があり、現在では多くの研究で広く用いられている。調査・研究の目的によっては、これら高度な機器や技術が必要な厳密な評価手法を行わずとも、簡便な測定方法で達成できることも多い。ただし、いずれの場合においても、対象の鳥種の各部位における色彩の特徴を詳細に把握した上で、測定法をどこまで簡略化できるのかをきちんと評価・判断し、その上で簡略化した手法を採用するといった手順を踏み、研究目的に合った測定精度を確保することが重要である。性判定においても同様であり、DNA用いた性判定手法や解剖による精巣・卵巣の確認等によるデータなど、正確な測定に基づく判定結果による裏付けが重要となる。本発表では、性判定を伴うルリビタキの色彩評価結果を用いて、ルリビタキがどのような色彩的な特徴をもつ鳥なのかを紹介する。また、それらと性別との関連性や、反復観察による色の変化に関する話題なども提供する。
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