カワウの大柄な個体はどの部位の骨も大柄か
福田道雄(東京都葛西臨海水族園飼育展示課)
カワウは日本有数の大型の潜水性水鳥の一つである。1970年代前半には希少鳥類の扱いを受けるまでに減少したが、1980年代になって増加に転じて、最近は全国各地に分布を拡大し、現在もなお微増状態である。そのため、漁業関係者との間で、各種の軋轢が起き、各地で有害鳥駆除が行われている。一方、カワウの計画的な標識装着は、1974年から開始され、2007年末で総数約8,200個体となった。当然ながら上記のような状況から、回収個体も他種に比べて比較的容易に入手できる機会が増えてきている。そこで、入手できた回収個体から骨格標本を作製して、カワウの骨格形態について調べた。
1986年から2008年の間に収集できた30回収個体について、全身の17か所の骨で最大長を測定した。左右対称の骨は左側を、左側が欠落した場合は右側を測定対象とした。測定にはデジタルキャリパーを用いて、o以下少数2桁までの値を3回読み、その中央値を採用した。カワウは一時期生息数が非常に減少して、分布が数か所に分断されていたので、最初に関東南部(東京、千葉)で出生した31個体とそれ以外の地域(愛知、滋賀、兵庫)で出生した4個体を比較した。有意な差異はなかったので、出生地域を分けずに比較することとした。次に、剖検による生殖器確認で性が判明した22個体の中で欠測値のない18個体(オス8、メス10)の測定値を用いて、性判別式を作成した。この式によって性不明の8個体の性を判定し、オス14個体とメス16個体で性別による比較をした。オスとメスでは大きな測定値の差異が見られた。
ついで、オス12個体とメス16個体で、それぞれの頭骨長測定値から、大きい値(B)群、中間の値(M)群、小さい値(S)群の3群に分けた。各群別の個体数は、オスが4、4、4個体、メスが5、6、5個体とした。17部位の骨長の平均値は分散分析(One-factor ANOVA)で比較した。オスは翼部と足部のほとんどの骨で有意な差があり、体部で差があったのは1か所のみであった。一方、メスは頭部以外で、差があった骨は翼部、体部、足部に散在していて、特定の傾向がみられなかった。なお、有意な差があっても、多くの場合でB群の平均値が最も平均値の少ない群の平均値に対する差であって、M群とS群の平均値には差がないか、むしろM群よりS群の方が長い骨であった(Post-hoc test, Scheffe's F test)。
以上をまとめると、オスでは頭部の大きな個体は飛翔力(翼部)も水中の推進力(足部)も大きいとみられるが、メスでは頭部が大きくても、特に他の部位が大きいという傾向はなかった。カワウは繁殖活動で、巣材運び以外の全ての行動(抱卵や育雛など)を雌雄で平等に分担して行うので、このような違いを持つ意味はよくわからなった。骨長の特徴の性差は、カワウでは生活力にではなく、性選択のみに影響しているのかもしれない。
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