Rtの効用 −齢の識別点の発見−

深井 宣男
  


−齢の識別点の発見−
 標識調査の大きなメリットの一つに、確実な個体識別があげられる。特にRtでは、新放鳥時から何年経っているかが確実にわかるため、齢の識別法が確立していない種について、識別に関する重要な手がかりを得ることができる。今回は、演者がRt例から齢の識別点を発見できた3種についてその過程を発表し、他種への応用を期待したい。

ヨタカの齢の識別点
 演者がヨタカにはまったきっかけは、自分の調査地で狙ってヨタカが捕れたことであった。よく知られているように、ヨタカは翼と尾の白斑の有無で性の識別は容易である。ところが、齢の識別については手元の資料ではわからなかった。山階鳥類研究所の方に聞いてもわからない。となれば自分で調べるしかない。海外の識別マニュアル類をみると、ヨタカ近縁種の齢の識別法は何となくわかった。しかし、これが日本のヨタカにあてはまるかどうかはわからない。そこで、捕れた全てのヨタカについて、翼と尾の写真撮影と換羽記録をとることにした。ところが一向に識別点がわからない(あとで判明するのだが、幼鳥ばかりであったからだった)。そんな時、たまたまRtが得られた。Rt時は成鳥羽であることが確実である。N時は幼鳥かどうかわからなかったが、写真を見比べると予想が見事的中し、海外のマニュアルでは触れていない違いも発見できた。あとはN時が幼鳥であることの確認をし、例数を集め、いくつかの証拠を揃えて解決できた。結果は標識協会誌に発表した。

深井宣男,2000.ヨタカの換羽と齢の識別について.日本鳥類標識協会誌 15(1):1-12.

オオコノハズクとアオバズクの齢の識別点
 ヨタカと並行して、なんとかしたいと思っていたのがオオコノハズクとアオバズクであった。齢の識別に関してはヨタカと似た状況であったため、こちらも予想を立てて写真記録を集めていった。オオコノハズクについては偶然Rtを得られ、ヨタカ同様に識別にメドがたった。しかし、こちらは成鳥の例数が少ないことから、まだ断定するには至っていない(まず間違いないのだが)。アオバズクは、渡良瀬の記録だけではお手上げであった。しかし、渡良瀬のメンバーの実家(新潟)で春の調査を実施した際、繁殖個体のRtを得ることができ、一気に解決した。識別点は思ったより簡単明瞭であった。以上の結果は、2006年の標識協会山口大会で発表した。

この方法の留意点
・文献や一般的な識別方法から、予想をたてることが重要。
・捕獲された個体の画像記録を撮る。撮影部位を決めて、多くの個体を撮影するので、鳥への多少の負担は否めない。必要最低限を短時間でこなす必要がある。また、撮影に際しては、羽が乱れた状態では意味がない。いろいろな点で慣れが必要。
・成果はきちんと発表し、多くのバンダー間で共有したい。

−その他の事例−  
トラフズクの繁殖個体の素性
 渡良瀬遊水地には、トラフズクが周年生息し繁殖もしている。しかし、繁殖個体が越冬期にも生息するのか、産まれた個体は他所へ分散するのか居残るのか、などは全くわかっていなかった。2008年、地元のカメラマンにより、営巣中のメス親が足環をしていることが発見され、番号が読める何枚かの画像が苦労して撮影された。番号は全部を読むことはできなかったが、読めた番号をセンターに連絡して絞り込んだ結果、運よく個体を特定することができた。この個体は2003年11月に新放鳥され、2005年には6月と12月に再捕獲されていた。また、1997年5月に巣内雛で標識された別個体が2002年10月にRtされていることから、当地のトラフズクは、繁殖個体群が周年生息している可能性が高いことがわかった。当地の保全上、重要な記録となった。

コヨシキリの舌斑と齢の識別
 それまでコヨシキリで舌斑を持つものは幼鳥であると考えていた。Rc時の齢違いに端を発し、齢の識別に少しこだわってみた。SOがいつ頃まで使えるのか、虹彩の色はどうか、舌斑はどうか、RpとRtから追ってみたところ、少ない例数ながら、秋の場合、SOは渡良瀬で捕れなくなる10月末の時点では使えること、虹彩の色は紛らわしい個体も多く案外使いにくいことがわかった。さらに、舌斑は成鳥(Rt)でも細く残る個体がおり、ごく希に幼鳥でも斑がない個体がいることもわかった。ハッキリした舌斑を持つのは幼鳥であるが、細い斑を持つものはSOなどで確認する必要があることがわかった。

ノゴマの渡り経路はかなり固定的?
 渡良瀬ではノゴマは渡り鳥である。北海道で発見された捕獲方法を使うようになってから、毎年秋に捕れるようになり、定期的に通過していることがわかった。現在まで700羽余が新放鳥され、Rcも2例出ている。当地ではノゴマは年により捕獲数の変動が大きく、また7日以内のRpしか得られていないことから、比較的短期間に通過するものと考えられ、週末のみの調査では、当たり外れがあるらしい。その中でRtが2例あった。広いヨシ原の中の狭い調査地で、渡り途中の個体が2例もRtされるということは、ノゴマの渡り経路がかなり固定的であることを示唆しているのではないだろうか?

アオジがシベリアアオジになって戻ってきた…
 ルリビタキやアカハラ・シロハラの性転換はよく聞く話である(筆者だけか?)。幼鳥時に性の識別が難しいからで、恥ずかしながら筆者も何回か経験している。最近の渡良瀬では、これらの種の幼鳥は基本的に性不明で記録している。ところで、2004年に足環付きのシベリアアオジ雄成鳥が捕れた。それまでシベリアアオジは標識放鳥したことがなかったのでRcだと思い、びっくりした。ところがそれはRtで、初放鳥時の記録は亜種アオジの雄幼鳥となっていた。まさか亜種まで変わって(単に識別を誤っただけだが)戻ってくるとは思っていなかったので、とてもよい勉強になった。最近の渡良瀬では、どんなに忙しくても色の薄いアオジは必ずT5の白斑を確認している(中間的な個体がいるのがまた悩ましい)。

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