新潟市関屋海岸林におけるシジュウカラの移動
藤澤幹子a, 小松吉蔵a, o千葉 晃a,b
(a日本鳥類標識協会新潟グループ・b日本歯科大学新潟生命歯学部)
【目的】シジュウカラはほぼ国内全土に分布し、平地から山地まで樹木のある環境ではありふれた小鳥である。周年観察されるため留鳥とみなされているが、国内を季節的に移動する個体も知られている。そこで、本州中部日本海沿岸における本種の移動の様子を明らかにするため、1987年から積み重ねてきた標識データの中から該当部分を抜粋し、分析を試みた。今回はその概要を報告する。
【調査地と方法】調査地(約100m×150m)は新潟市西海岸公園の一画(野鳥の森:北緯37°55′東経139°01′)を成すクロマツ林内にあり、ニセアカシアやエノキなどの広葉樹が混交し、人工池を伴っている。池の周囲にカスミ網12枚を設置し、悪天候の日を除いて連日早朝から日没まで調査を行なうよう心がけた。便宜上、調査結果を前期(1月〜6月)および後期(7月〜12月)に大分して紹介する。年によって作業の開始時期や継続期間は異なるが、概ね前期は3月~6月、後期は8月~11月に集中して調査を実施した。
【結果】1987年〜2006年の20年間に行った作業のうち、前期の実施日数は平均76.8日間(範囲:37〜119日)、後期のそれは72.5日間(同:21〜103日)であった。前期の場合、本種新放鳥数総数は5,355羽で、各年の数は45〜547羽と大きな変動を示した。外形で雌雄判別ができた4,990羽について各年の雄比率を求めたところ、平均42.9%(変動範囲:24.6〜54.7%)であった。同様に、後期の総数は7,819羽で、各年の数は21〜362羽と前期よりさらに大きな変動を示し、雌雄判別ができた3,361羽を対象にした際の雄比率は平均41.0%(変動範囲:16.7〜55.9%)であった。また、新放鳥数/1日は、前期の場合は0.5〜8.0羽 (平均3.8羽)で、後期の場合は1.3〜14.7羽 (平均5.8羽)と大きな値を示した。これは、後期において幼鳥の加入があったためと考えられる。事実、雄の幼鳥比は前期の平均値19.5%から後期の29.3%に増加しており、雌でも類似傾向が認められた。捕獲個体数の変動を調べたところ、前期は4月(主に中旬)に明瞭な増加(3月や5月の約10倍)が、そして6月中旬にも小規模な増加が認められた。4月の増加は春の渡り(北上群)とみなされる。一方、後期は8月から9月にかけて増加し、さらに10月下旬には4月の場合を凌ぐ顕著な増加が認められた。10月中旬から11月中旬まで見られる増加は秋の渡り(南下群)に該当する。このような季節変化は毎年繰り返されたが、移動個体数の規模やその増減幅は年によってかなり大きな変化を示し、個体数/1日の値で変化の範囲をみると、前期は0.5〜7.9、後期も1.0〜14.7と最大値が最小値の10倍以上となり、増減パターンは一見5〜8年間隔で繰り返されているような傾向が見られた。調査地から移動し他所で回収されたものは47例あり、そのうち36例は県内(約50km以内の近隣地域)での記録であった。また、400〜620km離れた北海道からの回収は7例あり、その他(青森、栃木、石川、京都)からの回収が各1例あった。一方、他所から移動して当該地で回収されたものは17例あり、そのうち北海道由来が7例を数えた。他の10例はすべて新潟県内(10例中9例は50km以内)で放鳥されたものであった。
以上の結果を総合すると、本種個体群の中には、北海道とその近隣(もしくは以北)を繁殖地とし、新潟県を含む本州中部日本海沿岸域を渡るものがいると考えられる。