長浜市湖北町琵琶湖湖岸におけるオオバンの標識調査:目的と経過

〇橋本啓史(名城大)・植田潤(湖北野鳥センター)・須川恒(龍谷大)


 オオバン Fulica atra はクイナ科の水鳥で,日本では九州以北で繁殖し,本州以南で越冬するとされている.本種は,滋賀県・琵琶湖では30年前までは冬にごく少数が観察されるだけであった.ところが,1978年ごろから数百羽のオオバンが越冬をはじめ,1979年からは琵琶湖湖岸のヨシ群落でも繁殖をはじめ,1981年にはかなり高密度で営巣していることが西日本ではじめて確認された(須川 1984).
 琵琶湖における本種の越冬数は,湖岸全域の船上からのカウントでは,1989年には1,272羽,1994年には1,722羽だったが,2007年末には26,444羽と大幅に増え(橋本・須川 2008),その後の日本野鳥の会滋賀支部による陸からの調査でも増加傾向が続いており,20131月には47,456羽が記録されている(植田 2012).この数は本種の東アジア個体群の個体数1%基準値である2万羽を超えている(Wetlands International 2013).
 琵琶湖における本種の繁殖地は,1990年代前半の調査ではまだ比較的大面積のヨシ群落に限られていた(橋本・須川 2006).しかし,近年は小規模なヨシ群落でも繁殖期に観察されており,増加傾向にあると考えられているが,それでも5万羽近くの越冬個体数を説明できるほどの数は琵琶湖だけでは繁殖していないと考えられる.
 本種の国内越冬個体群の渡りルートおよび繁殖地の追跡は,茨城県の北浦でウイングダグをもちいた標識調査例があるが(斉藤ら2000),繁殖期に東北地方で再発見されている.極東ロシアのハンカ湖で足環が装着された個体の九州の佐賀県での回収記録がある(Bird Ringing Centre Moscow, Russia).しかし,近畿地方や中部地方で越冬するオオバンの追跡例はない.なお,琵琶湖で越冬するオオバン個体群の渡来時期は他の場所よりも早い傾向にあり,大陸から日本海を直接.渡り追跡調査の必要性を感じている.
 そこで琵琶湖で越冬するオオバンの繁殖地がどこであるかを明らかにすべく,20123月に滋賀県長浜市湖北町の湖北野鳥センター前の湖岸で計9羽のオオバンを捕獲し,環境省の金属足環とウイングタグを装着した.
 また,そのうちの2羽にはGPS/Argos PTTを装着し,衛星追跡を試みた.しかし1羽は42日まで,もう1羽は512日までしか通信できず,それまでの間に琵琶湖湖岸以外に余呉川や付近の水田・水路等に行くことはあっても滋賀県長浜市内を出ることはなかった.ウイングタグを装着した個体は湖北野鳥センター前の琵琶湖湖岸や余呉川での再確認情報が同年7月頃まである個体もあったものの,滋賀県外からの再確認情報は今のところなく,渡りをしない個体だった可能性がある.なお,ウイングタグには個体番号を記入して個体識別できるようにしているが,翼の下に隠れたりするなどして番号が読めないこともあった.
 今後はアメリカオオバンの標識で用いられているプラスチック製の首輪と同様な個体番号の入った色首輪を装着することを検討している.また,いかにして渡りをする個体を捕獲するかも今後の大きな課題である.
 ウイングタグや首輪を装着したオオバンの情報は下記ウェブサイトで提供している.
        http://www.ne.jp/asahi/hashi/hashi8/res/ooban.html
       http://birdbanding-assn.jp/J05_color_ring/ooban.html


2013年度日本鳥類標識協会全国大会シンポジウム講演要旨

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