(2012年日本鳥類標識協会大会シンポジウム)

秋季におけるツバメの換羽
真野 徹


 演者はツバメの換羽について,1976年から1980年にかけて九州と沖縄地域を中心に調査を実施し,その後,東京都,愛知県,福岡県で補足的な調査を行い,「日本におけるツバメHirundo rustica の換羽」として2009年の日本鳥類標識協会誌(21(1):22-30)で発表した.その内,今回は三つの換羽パターンについて改めて紹介し,考察する.
 調査環境は何れもアシ原などで,集団塒を対象に捕獲作業を行った.
 調査を行った7月中旬から9月下旬までの何れの季節にも,風切羽が未換羽(No Molt),換羽中(Active Molt),換羽休止中(Suspended Molt)の個体が見られ,季節,地域によりそれらの割合が変化していた.
 特に注目されるのは換羽休止中の個体で,その割合が7月中旬の福岡では0%,8月上旬の東京では7.1%,8月下旬から9月上旬の鹿児島では44.6%,9月中旬から下旬の沖縄では70.4%と南の地域,季節が遅いほどその割合が高い結果であった.
日本のツバメは標識鳥の回収結果から琉球列島,臺灣を経由してフィリピン,インドネシアなどへ渡ることが確かめられている.南方の越冬地へ渡るにはどうしても海上を飛翔しなければならない.ツバメは陸鳥であり海上では休むことが出来ないので,海上を渡る時に翼が完全でない状態では生存する上で不利であり,そのため換羽休止という生理現象を発達させたと考えられる.
 ヨーロッパで繁殖するツバメは南アフリカで越冬し,日本のツバメよりも2から3倍もの距離を渡っているが,そのほとんどが陸上で,海上はごく僅かにすぎない.渡り途中での換羽についての文献が少なく,よく分からないが換羽休止個体の割合は少ないようである.一方,アジアの大陸側で繁殖するツバメはタイ,マレーシアなどで越冬するのが知られている.こちらは全て陸上を渡ることが可能である.Broekhuysen, G. J. & Brown, A. R. (1963) は南アフリカのケープタウンの越冬地では成鳥と幼鳥の間に換羽の差が見られなかったとしている.Medway, L. (1973) は,マレーシアの越冬地では成鳥の換羽ステージの方が進んでいる様子を表にしており,渡り途中に換羽を開始している可能性が高い.双方ともに換羽休止については触れられていない.
 今後はヨーロッパ,アフリカやアジアの大陸側を渡るツバメの換羽状態の調査が必要と考えている.幸い上海の崇明島,香港の米埔には標識調査の拠点が有り,地元の研究者や日本から出かけてでも秋季渡り途中でのツバメの換羽調査が行われることが望まれる.

文 献
Broekhuysen, G. J. & Brown, A. R. 1963. The moulting pattern of European Swallows, Hirundo rustica, wintering in the surroundings of Cape Town, South Africa. Ardea 51:25-43.
Medway, L. 1973. A ringing study of migratory Barn Swallows in West Malaysia. Ibis 115:60-86.

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