1995年日本鳥類標識協会大会IN兵庫県豊岡市
シンポジウム「ヨシ原と標識調査」の記録(作成中)


                                 シンポジウム「ヨシ原と標識調査」開催の趣旨  

                                        須川恒・大城明夫

 ヨシ原(アシ原)と標識調査というテーマで本大会のシンポジウムを開催する大きな動機は二つあります.
 一つは,これまでの日本の標識調査の中でヨシ原における標識調査は重要な役割を果してきたことです.ヨシ原は一年を通して鳥達の生息地としてさまざまな役割を果しています.春には北方に渡る鳥達が中継地として利用し,初夏にはオオヨシキリやヨシゴイなどが雛を育てる営巣地となり,晩夏にはツバメやムクドリなどの集団塒地,あるいはカワラヒワなどの換羽地となります.さらに秋にはオオジュリンやアオジ,カシラダカなどの渡りの中継地となり,地域によっては,引続き良好な越冬地となります.このようにヨシ原には標識調査を行う上で多くのテーマがあり,ヨシ原における標識調査は,福島潟1級ステーションをはじめ全国各地で精力的に行われています.また,ヨシ原にかかわる標識鳥の回収例は多く,ここに集う仲間の多くは,それらの回収記録を通して知り合っています.ヨシ原における標識調査の意義を確認するとともに,今後ヨシ原における標識調査をさらに実り多いものにするために,どういった課題があるのかを整理することが大切と考えます.
 もう一つは,近年開発の対象になるヨシ原が多く,消滅の危機にある調査地も少なからずあることです.一方では,ラムサール条約等によってヨシ原を含む湿地の保護へ向けての関心が高まりつつあります.標識調査はヨシ原保護のためにどんな貢献ができるのかを考え,ヨシ原保護のためにどのような調査を行なう必要があるのかを考えることも重要な課題です.
 本大会のエキスカーションが行われる円山川河川敷には近畿地方でも注目すべきヨシ原が広がっています.また,この近くにある施設では,コウノトリ人工増殖の試みが成功し,野に舞うコウノトリの復活になくてはならない但馬の湿地保護に向けての関心が増しつつあります.この豊岡の地で,ヨシ原と標識調査について話し合うことは,ふさわしい課題であると考えます.
 具体的な進行としては,尾崎さんに全国的概況を語っていただき,各地からの報告を,兵庫の片岡さん、九州の武下さん,富山の山本さん,愛知の真野さんらから受け,地元の本庄さん,松島さんから広い立場からコメントをいただきます.これらの話を受け,今後の課題の整理を行いたいと思います.


                                   講演のプログラムと講演要旨(未完)

参考図
図 ヨシ原の生育と鳥類による利用

図 ヨシ原を主たる調査地とする標識調査(1級、2級ステーションより)



                                シンポジウム「ヨシ原と標識調査」今後の課題の整理

                                         須川恒・大城明夫

 シンポジウムの中の報告および論議を受け,ヨシ原における今後の標識調査をさらに実り多いものにするために,またヨシ原の保護を進めていくために必要な今後の課題を,以下の6点に整理しました.

1.ヨシ原生息種の識別・齢査定等が容易に行えるハンディーなマニュアルの作成
 この点に関しては,標識室作成の鳥類標識マニュアルが,ウグイス亜科やホオジロ科などのヨシ原に生息する多くの種に関して既に完成し,バンダーの活動が支えられています.ヨシ原に生息する多様な種に対応するために,さらにどのような種についてのどのような情報が重要かを共に明らかにして,今後ともマニュアルを充実していくことが大切だと考えます.

2.ヨシ原間の回収記録がビジュアルに示せる手法の開発
 各地のヨシ原で得られる数多くの回収記録を様々な観点から整理して,全国的な状況をビジュアルに把握できることを,ヨシ原の調査にかかわるバンダーは特に待ち望んでいます.現在,標識室ではリカバーの全記録をデータベース化する作業が進められています.各種の鳥類が渡りの際にどのように移動しているのかを把握し,またそれぞれのヨシ原が,中継地や越冬地等としてどのような意義を持っているのかを明らかにすることが重要です.

3.ヨシ原における放鳥種の年次・地域別変化の比較が可能となる調査手法の確立
 ヨシ原に生息する鳥類のモニタリングの役割を標識調査は果たすことができます.各地のヨシ原における放鳥数は年によってあるいは地域によって大きく異なっています.この値を利用して個体数の経年変化や地域比較を行うことできます.しかし,このためには年による,あるいは地域による捕獲努力量の差による補正を行う必要があります.この点に関して各地の調査者の資料整理の工夫が望まれます.

4.ヨシ原の規模や生息種や調査成果をまとめた「ヨシ原標識調査地目録」の作成
 バンダーの多くは,自分が放した鳥の回収記録が寄せられたヨシ原の様子を知り,また自分の調査地にしているヨシ原の様子を伝えたく思っています.このような時に役立つ資料集が「ヨシ原標識調査地目録」です.目録中に,ヨシ原の特性(規模や植生,地図等),主要生息種,注目すべき生息種,標識調査の成果,保護上の課題などの情報が簡便に集積されておれば,調査地の様子を相互に理解できる基盤ができます.標識調査によって鳥類の貴重な生息地であると判明したヨシ原の保護を自治体や国の機関に訴える際には,このような目録は大きな役割を果たすことでしょう.とりあえずは,1級や2級ステーションとして重点的な調査を行っているヨシ原に関しての目録作成が望まれます.

5.鳥類の多様なヨシ原利用を把握できる調査手法の開発
 ヨシ原と総称している湿地性植生は実に多様であり,それぞれの調査地の特徴と生息している鳥類の関係を明らかにすることが必要です.参加者からも指摘がありましたが,換羽地等となっているヨシ原の標識調査を行うためには特別の工夫が必要です.こういった工夫と共に,得られた資料を新たな視点で分析することによって,多様なヨシ原利用の実態を明らかにする作業が必要です.

6.湿地にかかわる他分野との連携とヨシ原を保護するための啓発活動の推進
 ラムサール条約によってヨシ原や干潟といった湿地の価値が見直されています.標識調査によってヨシ原の価値が明らかになる一方,様々な分野でヨシ原やその周辺環境の研究が進んでいます.そのような分野と連携しつつ,バンダーでなければ判らないヨシ原の価値を,多くの人々が理解できる資料や映像で示す活動を地道に行うことが,結局はヨシ原の保護につながると考えます.

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