2015年度(第30回)日本鳥類標識協会大会報告

 
 大会プログラム 
(シンポジウムおよび一般講演のタイトルは講演要旨にリンク)
 大会開催のご案内 
大会開催結果報告
TaikaiSapporo2015report.pdf へのリンク



2015年度(30)日本鳥類標識協会大会プログラム

1.開催日: 2015829()30()

2.大会会場:北海道立道民活動センター「かでる2.77710会議室
  060-0002 札幌市中央区北2条西7丁目 道民活動センタービル
  TEL: 011-204-5100
  URL: http://homepage.kaderu27.or.jp/

3日程

1日目 8月29日(土)

12:00             受付開始

13:00             開会

13:1015:00       
             シンポジウム  標識調査による繁殖鳥モニタリングの意義と活用

      シンポジウムの趣旨説明 山階鳥類研究所 尾崎清明
講演1
諸外国における繁殖鳥モニタリングの実態と、わが国における現状紹介
仲村昇(公財 山階鳥類研究所)
講演2
繁殖期の標識調査から得られる情報と注意すべきことについて
   永田尚志(新潟大学・朱鷺・自然再生学研究センター)
講演3
バンディングによる繁殖鳥モニタリング調査で得たもの ―札幌・羊ヶ丘の事例―
   川路則友(森林総研北海道)
総合討論  進行 尾崎清明(公財 山階鳥類研究所)

15:00〜15:15 休憩

15:15〜16:00 一般講演
セジロタヒバリAnthus gustaviとコセジロタヒバリA.menzbieriの識別,および 日本からのコセジロタヒバリの記録
  ○ 茂田良光(公財 山階鳥類研究所)・小倉 豪(韓国国立公園渡り鳥研究センター)
尾羽が18枚の“小さいオオジシギ”とは何者か?
   小田谷嘉弥(鳥の博物館)
オオワシの年齢と羽色について
   中川 元

16:00〜17:00 総 会
18:00〜20:00 懇親会(ポールスター札幌 4F ライラックの間)

2日目 8月30日(日)

9:00〜10:15 一般講演
北海道のバンディングと北海道バンダー連絡会の28年の歩み
   佐藤理夫
秋の渡り期におけるアオジの体重変化
   玉田克巳(北海道立総合研究機構)
石狩川最下流域におけるショウドウツバメのコロニー間移動
   ○河原孝行(森林総合研究所)・広川淳子(江別市)・田子元樹(札幌市)・
梅木賢俊(日本野鳥の会小樽支部)
オオミズナギドリの幼鳥から見える「やっぱりふるさとが一番」
   ○須川恒・狩野清貴・米田重玄・平井正志
牧草地周辺での標識調査について
   中田達哉((株)野生生物総合研究所)

10:15〜10:30 休憩

10:30〜11:15 一般講演
ハブへのモビングを利用したヤンバルクイナの捕獲方法
  ○尾崎清明(山階鳥研)・渡久地豊(工房リュウキュウロビン)
DNAバーコーディングと鳥類標識調査
  ○齋藤武馬・浅井さやか・浅井芝樹・岩見恭子 (山階鳥研・自然誌研)
バンディングデータの利用
  吉安京子(公財 山階鳥類研究所保全研究室)

11:15 閉会
11:20〜11:30 記念撮影

13:00 会場出発   エキスカーション(希望者) 道立自然公園野幌森林公園 (現地解散)
                      http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/environ/parks/nopporo.htm

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大会開催のご案内
2015年度(30)日本鳥類標識協会大会開催のご案内
2015年度日本鳥類標識協会大会実行委員会


2015年度(30)日本鳥類標識協会大会を2015829()30()の日程で、北海道札幌市において開催します。
 北海道は、日本全土の約22%を占める自然豊かで広大な土地、豊富な農畜産物、多くの野生動植物、パウダースノー等多くのイメージがありますが、今回はその中で札幌市を中心にしたエリアで皆さんをお待ちしています。

 札幌市は、人口190万人という巨大都市ですが、市中心部にも北海道大学植物園をはじめ、自然豊かな都市公園が多いことでも知られています。
 また市中心部を一歩離れると、カッコウが飛び交い、オオジシギが急降下する広大な草地にホオアカ、ノビタキ等が繁殖し、河川敷の草原、原野、牧草地では、チュウヒ、オジロワシが飛翔し、エゾセンニュウ、コヨシキリ、オオジュリン、ベニマシコ、ウズラ等が繁殖しています(写真1)


写真1繁殖期に捕獲されたウズラM A





 一方、札幌市内の森林ではキクイタダキ、ヤマシギ、エゾライチョウ、クロジ、ハイタカ、カケス、ヤマゲラ、クマゲラ等も繁殖しています。そのうち低地丘陵の札幌・羊ヶ丘の網場の例では、アオジ、メジロをはじめとして毎年1,500羽以上を放鳥していますが、ヤブサメの占める割合がかなり高いことで知られています。調査中にヤブサメの全身幼羽個体が多く捕獲されるのも特徴的です(写真2)


写真2. 1Wへの換羽を開始しているヤブサメ幼鳥





  昨年の総会で、日本鳥類標識協会が第3回全国繁殖鳥類分布調査への主催団体として協力することを表明しましたが、今回の札幌大会では、シンポジウムのテーマとして「繁殖期のバンディング」を取り上げ、欧米におけるモニタリングの現状、繁殖期に行うバンディングについての留意事項、ここ数年にわたって実際に全国で行われている繁殖鳥モニタリング調査の結果等を主体に、繁殖期のモニタリングをとおして、これからの日本の鳥類標識についての方向性を探ることを目的としています。
 札幌では、お盆を過ぎるころから、日中の暑さも一段落して、夕刻には逆にゾクッと冷え込むこともあります。とくに本州以南で厳しい暑さの続く日々をお過ごしの会員の皆さま、一服の涼を求めて、今回の札幌大会にぜひご参加ください。


会場案内図
「かでる2.7」ホームページより


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大会開催結果報告

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講演要旨 (大会プログラムにリンクしています)
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シンポジウム趣旨説明 尾崎清明(山階鳥類研究所)

 わが国では、鳥類標識調査により毎年130,000150,000羽が新たに標識放鳥されているが、おもに春秋の渡り期もしくは越冬期に行われることが多い。したがって、繁殖期の成鳥、幼鳥の調査は不十分で、渡りの起点や繁殖地における個体群動態などの把握ができていないのが現状である。しかし欧米諸国では、古くから繁殖期にヒナに標識することが積極的に進められてきた。そのことによって、生まれた場所と年齢が明確なデータが蓄積されている。さらに近年は個体群のモニタリングの観点から、標準化された定量的な標識調査を長年継続することが推奨されるようになった。これにより、幼鳥の捕獲数から年ごとの繁殖成功率を、成鳥の再捕獲率から生存率を導き出すなど、種ごとの個体数の変遷を詳細にモニタリングすることが可能となっている。
ところが日本では、わずかに山中湖ステーションなどで繁殖期の調査が継続されている例や、特定の種の繁殖研究で金属リングを併用すること、一部の海鳥での調査、を除いて繁殖期の標識調査はほとんど行われていないといってよい。その原因として、繁殖期にはなわばりをもった同じ個体が何度も捕獲され、捕獲数も種数もかなり限定される、繁殖期に捕獲行為を行うと繁殖行動を妨害するおそれがあり不安、などが考えられる。
山階鳥類研究所では、2011年の東日本大震災にともなう原子力発電所の事故による放射線漏れに対する繁殖鳥類への影響を把握するために、2012年の繁殖期から全国で標準化した定量的なバンディングによるモニタリングを開始した。現在、バンダーの協力も得て、全国13箇所で継続的に行っており、徐々に有益なデータも蓄積しつつある。また、第3回全国鳥類繁殖分布調査が2016年度から本格的に開始され、日本鳥類標識協会も主催団体の一つとして、積極的に参加、協力することになっている。
今回のシンポジウムでは、まず、諸外国における繁殖モニタリング調査の実態とわが国の現状、ついで繁殖期におけるバンディング調査で留意すべき事項、最後に、実際にここ数年繁殖鳥モニタリング調査を実践してきた調査地からの報告として、3名から講演をいただき、繁殖期のモニタリングの重要性をあらためて認識するとともに、繁殖鳥モニタリング調査が今後のわが国の標識調査の柱の一つとなりうるかという観点から議論を深めたい。

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諸外国における繁殖鳥モニタリングの実態と、わが国における現状紹介
      仲村 昇(山階鳥類研究所)

  鳥類の繁殖モニタリング手法としては、センサスや直接カウントの他、標識調査を活用した方法がある。ここでは、標準化(定量化)した標識調査による、陸鳥類の繁殖モニタリング調査について、諸外国および日本の現状を紹介する。
標準化した標識調査による広域の繁殖鳥モニタリングは、CES(Constant Effort Site Ringing)の名称で1983年に英国で初めて実施された。その後、欧州各国で類似調査が始まり、現在11ヵ国、約460地点で実施されている。全欧州でデータ共有しており、広域のデータ解析も可能である。
北米(米国・カナダ)では、MAPS(Monitoring Avian Productivity and Survivorship)というプログラム名で1989年に広域調査を始めており、調査地点数は現在約400地点である。
  アジアでは台湾が最初で、台湾MAPSプログラムとして2009年から6地点前後で調査している。日本では日本MAPSとして2012年に6地点で始まり、2014年には13地点まで増えた。ロシア、中国、韓国では類似の調査は行われていない。
この調査は、かすみ網を用いた標識調査を、鳥の繁殖期に同一場所で一定時間、繰り返し実施する。このように努力量を統一した調査を複数年(5年、できれば10年以上)継続することにより、成鳥個体数、繁殖成功率(成鳥1羽あたりに換算した幼鳥数)、成鳥生存率等の基礎データ及びこれらの変動傾向が得られる。他の調査手法にはない、この手法独自の特徴は、足環で個体識別しているため、成鳥の年度間生存率を把握できることにある。ただし、調査地周辺にいる全ての個体が捕獲されるわけではないため、上記のデータはいずれも指標値となる。
具体的な調査方法の骨子は、5月1日以降の繁殖期を10日間の期に区切り、各期に1回ずつ、日の出から6時間だけ開網する。網への誘引や追いこみは禁止とする。英国では1期から12期まで計12回の調査実施が基本である。北米では、各調査地で北上する渡り個体が概ね渡去した後に調査開始、としている点が異なる(2期または3期から開始する地点が多い)。また北米では、8月中旬以降は渡り個体の移入が多くなるため、省略可能としている。
記録項目は、性、齢、体重、翼長、抱卵斑の状態、総排泄口の状態、換羽状況等である。また、網には固有番号が割り振られており、各個体が捕獲された網番号や時間も記録される。
  米国や欧州各国の調査手法の多くは英国の調査マニュアルを手本にしているが、各国で多少改変しており、全く同じではない。日本版MAPSマニュアルは、米国の調査マニュアルを元に作成している。
  日本では、部分白化等の外部形態異常やポックス等の病変の出現率を把握したいため、これら外見上の異常についても記録するようにお願いしている。他国でこのような記録をしているかは不明だが、少なくとも北米MAPSでは記録していないようである。
日本MAPSでは、原発事故による被爆が繁殖鳥類に及ぼす影響を把握する目的もあり、福島県内には3地点を設定した。この3地点を中心に、4年間で得られた結果概略も紹介する。

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繁殖期の標識調査から得られる情報と注意すべきことについて

永田尚志(新潟大学・朱鷺・自然再生学研究センター)

 私は、大学院時代は博多湾でウチヤマセンニュウの繁殖生態を、国立環境研究所時代は利根川下流域でオオセッカ、オオヨシキリ、コヨシキリ、コジュリンの繁殖生態を研究してきた。今回は、大学時代から40年近くお世話になった川路大会実行委員から、2016年度から全国繁殖鳥分布調査が始まるので繁殖期の標識調査の留意点について話してほしいとの話題提供を依頼された。多くのバンダーは、主に、春・秋の渡りの時期、あるいは、冬期のヨシ原で標識調査を実施していると思われるが、繁殖期には、成鳥では、抱卵斑の発達→卵形成個体の確認→繁殖終了後の換羽、などの変化が観察される。抱卵斑は、抱卵する性にのみ発達するため、雄が抱卵しないオオヨシキリ、オオセッカ、ウチヤマセンニュウ等では、雄には抱卵斑は発達せず、雄のみが抱卵するヒレアシシギでは雌には抱卵斑が発達しない。また、一夫多妻制の種では成鳥雄の総排泄突起の発達を観察することができる。これらの特徴を注意深く記録することで、巣を見つけなくても繁殖の進行状況を類推することが可能となる。また、多くのスズメ目鳥類では繁殖終了後に換羽を行うので、換羽状況を調べることで繁殖終了時期を知ることができる。また、巣立ち直後の幼鳥は幼羽で包まれているが、巣立ち後に亜成鳥羽に換羽をするので、その換羽状況を調べることで大まかな巣立ち時期を調べることができる。ただ、抱卵中の個体を長く拘束すると、卵が冷えることで胚が死亡し、繁殖の失敗もひきおこすことになる。そのため、繁殖期、特に、抱卵最盛期の標識調査は、1回に張る霞網数を減らし、見回り間隔を短くし、個体の拘束時間を短くする必要がある。また、天候が悪い雨天や気温の低い日には標識調査を控えることも必要である。繁殖最後期になると、抱卵中の個体が少なくなり、多くの網を一度に設置することが可能になると同時に、幼鳥の個体数が増加するので捕獲個体に占める幼鳥の割合は調査地での繁殖成功率を知る指標となる。今回は、ウチヤマセンニュウ等、複数のスズメ目鳥類の繁殖期の抱卵斑や換羽状況等の事例を示しながら、繁殖期の標識調査のノウハウを紹介する予定である。


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バンディングによる繁殖鳥モニタリング調査で得たもの ―札幌・羊ヶ丘の事例―

川路則友(森林総研北海道)

 「標準化された標識調査による繁殖鳥類モニタリング調査」(以下、繁殖鳥モニタリング調査)を、札幌市豊平区羊ヶ丘の森林総合研究所北海道支所実験林(以下、札幌・羊ヶ丘)において、2013年の繁殖期から開始している。植生は高木層がおもにシラカンバやミズナラで構成され、林床にクマイザサやチシマザサが密生する落葉広葉樹二次林内の整備された歩道に沿って、30メッシュ×12mのカスミ網を5枚ずつ、2箇所(標高180mおよび210m地点)に分けて設置した。調査地においては5月下旬以前と8月中旬以降は種によって渡り個体と繁殖個体が混生する時期になることから、 5月下旬から8月中旬までの間に合計8日間の調査を行っている。調査期間中に捕獲された延捕獲数(新放鳥+Rp+Rt)は、2013年で19種168羽、2014年で21種238羽、2015年で22種135羽であった。捕獲効率は、それぞれ0.35、0.50および0.28となったが、Rpを除くと、0.30、0.42および0.24であった。3年間とも10羽以上捕獲されたヤブサメとキビタキの2種で、幼鳥数/成鳥数の年変化を見ると、ヤブサメ(0.6 → 0.3 → 0.5)とキビタキ(1.8 → 2.3 → 1.4)となった。全期間で捕獲した鳥類28種のうち、これまでに調査地付近で巣を確認できたのは22種であった。これらはすべて今回の調査期間中に成鳥メス等に抱卵斑が確認されたほか、オスの顕著な総排泄腔突出や巣立ち後間もないと見られる幼鳥を含んでいた。一方、調査期間中に捕獲されたが、これまで調査地付近で巣を確認していない種は、アリスイ、オオムシクイ、エゾムシクイ、シマセンニュウ、ビンズイおよびクロジの6種であった。そのうちクロジ以外は、観察した外部形態に明確な繁殖兆候が認められず、種によってはまだ多量の脂肪蓄積が認められたことなどから、渡り途中もしくは隣接した地域で繁殖したのちに本調査地を通過した際に捕獲されたものと推測された。クロジは2013年に5個体、2014年に8個体、2015年に8個体を捕獲した。内訳は、オス5羽、メス5羽および幼鳥(性別不明)11羽であった。オスにはすべて顕著な総排泄腔の突出が見られたが、2羽にはわずかながら抱卵斑が認められた。メスにはすべて明確な抱卵斑が認められた。また幼鳥は、いずれもまだ幼羽が全身に残っている状態であった。調査地では、頻度は高くないものの、繁殖期間を通じてクロジのさえずりが聞こえていたことから、クロジが調査地で繁殖をしている可能性がかなり高いと思われた。このようにバンディングによる繁殖鳥モニタリングは、長期間のデータ蓄積による個体群動態の把握のみならず、繁殖期間中に捕獲される鳥について繁殖可能性の有無についても、有益な示唆を与える手法となり得る。

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セジロタヒバリAnthus gustaviとコセジロタヒバリA.menzbieriの識別および 日本からのコセジロタヒバリの記録
○茂田良光(公財 山階鳥類研究所)・小倉 豪(韓国国立公園渡り鳥研究センター)

 広義のセジロタヒバリ Pechora Pipit, Anthus gustaviは,ロシア北西部のウラル山脈北西部からチュコト半島,南はエニセイ川中流域からレナ川中流域,カムチャツカ,コマンドル諸島,ウスリー南部から中国黒龍江省北東部のハンカ(興凱)湖周辺に分布,繁殖し,非繁殖期にはフィリピン,ボルネオ,インドネシア,スラウェシ等に渡り越冬する(Vaurie, 1959; Alstrom & Mild, 2003; Tyler, 2004)。日本と朝鮮では旅鳥である(山階, 1934; Ornithological Society of Japan, 2012)。
 セジロタヒバリは,繁殖分布域の大部分を占める基亜種セジロタヒバリPechora Pipit, A. g. gustaviとコマンドル諸島等の亜種A. g. stejnegeri = commanderensis,ハンカ湖周辺の亜種コセジロタヒバリMenzbier's Pipit, A. g. menzbieriの3亜種(Vaurie, 1959; Hall, 1961; Dickinson & Christidis, 2014),または亜種stejnegeriを基亜種に含め,2亜種だけが認められることがある(Alstrom & Mild, 2003; Stepanyan, 2003)。しかし,亜種コセジロタヒバリは,他の亜種とは囀りが異なること(Cramp, 1988; Lenovich, Demina, Veprintseva, 1997),および繁殖分布が離れていることとミトコンドリアDNA解析の結果から,2亜種が2種として扱われる妥当性が支持されている(Nechaev & Gamova, 2009; Drovetski & Fadeev, 2010)。ここではこれらの見解に従い,それぞれを2種として扱うことにする。
 小倉は2010年9月から韓国南西部の黒山島で標識調査を継続し,セジロタヒバリとコセジロタヒバリは春期と秋期に黒山島を通過する事を確認している。茂田と小倉ほかは,北海道,与那国島,カムチャツカ,韓国釜山においてセジロタヒバリを標識・放鳥したことがあり,カムチャツカでは繁殖期にセジロタヒバリの巣と雛を観察し,囀りを録音したことがある。本発表では個体や季節による羽衣の変異を含み,セジロタヒバリとコセジロタヒバリの外部形態による識別について報告する。また,日本におけるコセジロタヒバリの記録について報告する。
 両種とも上面・下面・尾などの斑や羽色には個体変異があり,識別は容易ではない。コセジロタヒバリはセジロタヒバリと比較し,各部位のサイズが小さく,上面により緑灰色味があり,頭上や背と腰の黒い縦斑,胸と腹,脇の黒い縦斑の幅がやや太く明瞭である。また,コセジロタヒバリは,下面のバフ黄色や下尾筒のバフ色がセジロタヒバリより濃い傾向がある。
 コセジロタヒバリは,1927年2月15日に石垣島で岩崎卓爾氏により,採集された雄の標本記録がある(三島冬嗣, 1968)。この標本は森林総合研究所に所蔵されており(Kawaji & Tojo, et al, 2003),小倉と茂田は,本年4月13日に同定が正確なことを確認した。この記録は日本からのコセジロタヒバリの初記録である。1995年9月24日に西表島西部,住吉の浦内川河口の湿地と採草地付近の舗装道路上において日本動植物専門学院の生徒が斃死鳥1個体を拾得し,西表島在住の庄山守氏に届けた。この個体は我孫子市鳥の博物館に本剥製として収蔵され,ラベルにはセジロタヒバリと記されていた。昨年,小倉と茂田が詳細に調べたところ,セジロタヒバリではなく,コセジロタヒバリの雄・第1回冬羽であることが判明した。この個体は,日本からのコセジロタヒバリの第2記録である。本種はセジロタヒバリとの識別が難しいため,誤認されやすいので,注意が必要である。
 森林総合研究所所蔵の標本の閲覧について東條一史氏に,我孫子市鳥の博物館の斉藤安行氏と小田谷嘉弥氏には同館所蔵のコセジロタヒバリの本剥製の閲覧,山階鳥類研究所所蔵の両種の標本閲覧には山崎剛史氏と鶴見みや古氏,今村知子氏に便宜をいただいた。庄山守氏には,コセジロタヒバリの拾得時の情報を教えていただいた。鳥の博物館所蔵のコセジロタヒバリの本剥製は訪日中のLars Svensson氏にも昨年11月17日に見ていただき,同氏から同定の賛同が得られた。これらの方々に深く感謝の意を表する。

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尾羽が18枚の“小さいオオジシギ”とは何者か?
小田谷嘉弥(鳥の博物館)

 日本周辺の東アジアにのみ繁殖分布するオオジシギGallinago hardwickii(尾羽の枚数は14-19枚)と、ユーラシア大陸中部から東部にかけて分布するチュウジシギG. megala(尾羽の枚数は18-26枚)は形態的に類似し、識別が困難である。国内や近隣のアジア地域では、オオジシギに似て尾羽が18枚だが、既知のオオジシギの測定値よりも小さいジシギがしばしば捕獲されている。これらの個体を識別するためには、十分なサンプル数の個体をもとに、性や年齢による変異を把握する必要がある。本研究では、オオジシギとチュウジシギの個体変異や換羽について情報を収集するため、両種の秋の渡り時期を通じて捕獲調査を行った。
 2012から2014年の7月中旬から10月上旬にかけての秋の渡り時期に、茨城県および千葉県の農地において捕獲・標識調査を実施した。捕獲はカスミ網と音声誘因、およびたも網とライトを用いた方法で行った。4か所でチュウジシギ82個体、オオジシギ20個体を新規に捕獲標識し、各部測定と換羽状況の記録、および写真撮影を行った。捕獲個体は測定値、尾羽の枚数、外側尾羽の形状等から種の識別を行った。
 捕獲したチュウジシギの測定値(最小値-最大値)は、最大翼長140-155mm、尾羽長53-63mm、体重118-260gであった。最大翼長以外の測定値は全てオオジシギと重複した。尾羽の枚数は18枚が23個体、19枚が6個体、20枚が52個体、21枚が1個体で、22枚のものは捕獲されなかった。なお、全ての個体で尾羽に脱落がないか確認を行っている。
 捕獲されたチュウジシギの63個体の成鳥のうち、52個体で初列風切の換羽が完了していた。初列風切の換羽が完了していないのは11個体で、外側風切の伸長が完了していないものが8個体、旧羽を残しているものが3個体捕獲された。一方、オオジシギでは秋の渡り時期に捕獲された6個体の成鳥のうち5個体が全て旧羽を換羽せずに残しており、1個体では内側2枚のみを換羽して延期していた。
 関東地方で渡り時期に捕獲されたチュウジシギの測定値は、既存の文献によるチュウジシギの測定値よりも大きく、尾羽が18枚の個体の割合は従来記載されているよりも高かった。これらのことは、少なくとも国内においては、識別に測定値や尾羽の枚数だけで種を識別することが誤った結論を導く可能性を示唆している。
 チュウジシギでは記載されているよりも換羽の完了時期が早く、チュウジシギとオオジシギの成鳥では秋の初列風切の換羽の戦略に明確な違いがあることが示唆された。今後、性による変異と地理的な変異の両面から、チュウジシギの個体変異が解明されることが期待される。

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オオワシの年齢と羽色について
中川 元(知床博物館.現:知床自然大学院大学設立財団)

 オオワシの年齢による羽色変化については、森岡ほか(1995)、川田(2001)、富士元(2005)に写真及び記載がされている。これらは、いずれも越冬期の北海道における野外観察と写真撮影に基づくものである。北海道斜里町にある知床博物館にはワシ類の保護収容施設があるが、長期収容されたオオワシのつがい形成と繁殖に2003年成功した。3月に孵化した2羽の幼鳥は6月には営巣シェルターの外に姿を見せるようになり、それ以降2011年1月まで約8年にわたり年数回の写真撮影を続けた。これにより、孵化後3ヶ月から7才8ヶ月までの間の羽色の変化と嘴色の変化を記録できたので報告する。
 文献
 富士元寿彦(2005)「原野の鷲鷹-北海道・サロベツに舞う」.北海道新聞社,143pp.
 川田隆(2001)冬期北海道(一部地域)におけるオオワシ,オジロワシの年齢調査.BIRDER 15(10):21-26.
 森岡照明・叶内卓哉・川田隆・山形則男(1995)「図鑑日本のワシタカ類」.文一総合出版,631pp.

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北海道のバンディングと北海道バンダー連絡会の28年の歩み
佐藤理夫

 北海道バンダー連絡会は,1987年8月15日に三浦二郎(故人)氏を代表に設立された。設立総会は,ウトナイ湖畔の宿泊施設で27人(内会員は19人)の参加で行われた。
 その前年に,三浦氏は1987年に「北海道における鳥類標識調査1973〜1985」を発表した。この時,三浦氏は,北海道バンダー連絡会設立趣旨にも通じる結成に至る心境を,バンダーニュース12(日本鳥類標識協会 1997)に,次のように語っている。
 (前略) 報われることの少ないバンディングを,ただ鳥のことをもっと知りたい,できれば渡りのコースの一つでも解明できたらという意欲と興味だけでバンディングを続けていたわけです。鳥研が6年1回「鳥類観測ステーション報告」が送られてきますが,ともすると個人の努力が埋没するきらいもあります。そこで少なくとも北海道のバンダーがお互いに連絡がとれ合い,できれば親睦の場がもてないものだろうかと考えて,この組織を作ることを思いついたのです。たまたま日本鳥類標識協会の設立ということがあり,北海道でも,という気運にもなってきた(後略)
 当時の道内バンダーは約30名であった。この数は,都道府県単位では,多い方であろうが,道内のバンディングを考えたとき,決して多いとは言えない。つまり,広大な北海道の恵まれた自然環境の中で,バンディングのすそ野を広げ,調査地の偏りを多少なりとも解消し,多くの実践的なバンダーを育てるために,道内のバンダーの資質向上と後進の育成が不可欠であった。しかし,個々人の努力だけでは,なかなか前に進まないのが実情であり,三浦氏を筆頭に,多くの道内バンダーは危機感を抱いていたと言って良い。
 以下に,設立当初の規約を紹介するが,設立の目的は,「道内バンダーの情報交換と親睦を図り,新バンダーの資格取得に協力する」こととし,これを達成するために,イ)随時会報を発行し,情報交換をすること。ロ)調査年度に放鳥集計等を集約し,データの分析研究をまとめること。(現在は削除)ハ)必要に応じて,(技術交流を兼ね)共同調査を行うこと。ニ)資格取得希望者に実習等の便宜を図ること。に努めてきた。
 イ)は,バンダーニュースbP(日本鳥類標識協会 1991)によれば,当初から,年4−8回のペースで,これまでに21号発行されている。北海道バンダー連絡会が発行元であるが,編集,タイプ打ちから発送まで三浦二郎氏によっている。タイトルが示す通り,道内のバンディングの状況はこれを読めば一目瞭然である。つまり,当会の会報は当時年間4回から8回と,三浦代表が積極的に率先して会報を出し続けていた。バンダーニュースbPが発行されたのが1991年で,日本鳥類標識協会が発足から既に5年経過していたから,超人的というか,特質すべきことであろう。
 更に,ロ)は会員の「バンダーの個人別時期別放鳥状況」や「個人消費リング一覧」を集計するものであるが,(「これは実質成績表だ!」と恐れている人もいるとか……)と言う,事実とも冗談ともとれることが懐かしく思えるほどであるが,残念ながら、現在はこの事項は削除された。
 ハ)は,オオハクチョウ,タンチョウ,オジロワシ・オオワシ,オオヒシクイなどがあげられるが,最近では,奥尻島における鳥類調査を行っている。
 ニ)については,当会が設立されて初めてのバンディング講習会が,1988年8月27日から北海道大学苫小牧演習林で実施された。バンダーの登竜門である,バンディング資格取得講習を受講するためには,地元での研修を経て,最終的に福島潟1級ステーションで最終講習を受ける必要がある。ただ,福島潟に行くためには,往復で数日を有するため,有職の人は特に,よほどの覚悟が無ければならず,行くことはできない。これが,道内バンダーが増えない一因でもあった。この講習会の開催は,今後の北海道のバンディングを考える上で重要な出来事であった。この試みについて,三浦氏は,「今後道内開催は当分見通しがなく」と述べていたが,幸運なことに,その後も風蓮湖1級ステーションなど,不定期ではあるが実施されてきた。
 北海道バンダー連絡会では,今もそうだが,設立当初から連綿と続く,道内バンダー間の親睦や技術交流に力を入れ,最近では北海道独自の鳥類マニュアルの作成なども行っている。

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秋の渡り期におけるアオジの体重変化
玉田克巳(北海道立総合研究機構)

 アオジは、北海道では秋の渡り期でもっとも多く放鳥されている鳥である。渡りの時期は、地域や年によって多少の差はあるものの、おおむね、9月下旬から捕獲数が増加し、10月上旬に最高に達し、10月下旬にはほとんど捕獲されなくなる。
 筆者は、今までに北海道東部の中標津町と根室市、北海道西部の江別市などにおいて鳥類標識調査を実施し、アオジの体重について調べてきたので報告する。
 アオジの体重は、オスでおおむね18~24gである。江別市では2009、2010、2013年に体重のデータを収集した。オスについては、のべ729羽について計測したが、24gを超えたのは、1羽のみであった(図1a)。一方、根室市では1995年にオス237個体を調べたところ11羽の体重が24gを超えていた(図1b)。中標津町についても1992年にオス173個体を調べたところ、体重が24gを超えていたのは7羽であった。体重が24gを超える個体は北海道東部で多く確認されたが、北海道西部ではほとんど確認されなかった。東部で24gを超える個体が捕獲される時期は、10月11日以降に集中しており、渡りの後半に体重の重たい個体が捕獲される傾向があった。この傾向はメスについても同様のことが確認された。
 今回の調査結果から、アオジは北海道の西部では秋の渡り期にはあまり体重を変化さないのに対し、北海道東部では、渡りの後半で体重を著しく増加させる個体がいることが明らかになった。アオジは北海道の全域で繁殖する夏鳥である。今回の調査では、なぜ体重の変化が北海道の西部と東部で異なるか、その原因については明らかにできなかったが、渡りのメカニズムが北海道の西部と東部では多少異なる可能性があることが示唆された。

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石狩川最下流域におけるショウドウツバメのコロニー間移動
○河原孝行(森林総合研究所)、広川淳子・江別市、田子元樹・札幌市、梅木賢俊(日本野鳥の会小樽支部)

 ショウドウツバメRiparia ripariaはアジア、ヨーロッパ、北米の温帯域で繁殖し、冬季は南下する。日本では河原、梅木がそれぞれ繁殖地で標識したものがベトナムでそれぞれ秋季・冬季に再捕獲された例がある。ショウドウツバメは河川下流域及び海岸の崖で横穴を掘りコロニーをつくって繁殖する。石狩川最下流域では複数のコロニーが見られることから地域の個体群管理に役立てることを目的として、コロニー間の移住に関して標識再捕獲調査により年変動、雌雄間差を調べた。
 2000年〜2005年にかけて石狩川河口域のコロニー(約20q圏内)を対象として調査した。なお、梅木はその3年前から標識調査を行っていたためその時点に標識されたものが再捕獲されている。調査は6月下旬から8月上旬にかけて行い、夕方~日没または夜明け1時間前〜朝8時頃まで1か所につき1-4枚のATXをコロニー前に設置した。ほぼ40-1時間間隔で開閉し、繁殖への影響に配慮した。
 6年間ののべ放鳥数は5732羽であった。このうち、Rp551例、Rt527例、Rc468例(うち8例が山口市で初標識された例)であり、再捕獲率は26.3%と非常に高かった。また、再捕獲の中でも地域内での再捕獲例におけるRcの占める割合が28.9%と特徴的に高かった。これらのことは高確率で地域圏内に帰還する一方、地域内でのコロニー間移動が高いことを示している。コロニー間の移住率とコロニー間の地理的距離の間に相関は認められなかったことから、20q程度はコロニー選択の際の障壁にならないことを示唆している。移住率では雌雄間差はなかった。コロニーをつくらず単独で繁殖する小鳥ではしばしば雄が雌に比べて定住性が高いことが示唆されているが、ショウドウツバメのようにコロニーで繁殖し、また昨年の巣穴が崩壊しやすく新造する必要があることが、雌雄とも移住性を高くさせていると推察される。また、同年繁殖期内でのコロニー間の移動が9例あり、そのうちRcは3例あった。9例のうち、雄成鳥4例、雌成鳥4例、性不明幼鳥1例であった。このことから、ねぐらとして複数の巣穴を利用している、複数のコロニーで繁殖巣をもっている可能性を示している。
 以上のように、ショウドウツバメは地域のコロニー間を年次間、年内で高頻度で移住していることが明らかになった。したがって、地域のコロニーはメタ個体群として機能しており、その管理にあたっては、個別のコロニーの管理より地域全体にわたりコロニーが存立できるようにすることが重要となる。

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オオミズナギドリの幼鳥から見える「やっぱりふるさとが一番」
○須川恒・狩野清貴・米田重玄・平井正志

 昨年(2014年)8月第26回IOC(国際鳥類学会議)(立教大学)で行ったポスター発表「オオミズナギドリの幼鳥分散と繁殖帰還性についての長期的調査」の内容について、どのような経過でポスター作製までに至ったかの経過を含めて紹介する。
 京都府舞鶴市冠島のオオミズナギドリの繁殖コロニーでは1971年から継続的なオオミズナギドリへの標識調査が実施されてきた。1978年(一部1977年)から須川がA地区で10mメッシュの調査区画を設定して標識時の位置情報を記録し、1984年以降のデータは、デジタル入力された情報として利用できるようにした。
 数年前から狩野は、Dbaseでなく、汎用性のあるエクセルでの入力や整理を須川に提案し、須川・狩野で2011年11月に日本鳥類標識協会大会、2012年3月に日本生態学会大会で冠島の二つの調査区域(A地区と約200m離れたB地区)それぞれへの帰還性が高い点を示す発表をした。2013年1月26〜27日須川宅で狩野・平井・大城明夫が集まり、それまでの経過を説明した。平井はその後、短期間に須川・狩野の計算が正しいことを確認し、さらにA地区の10mのメッシュ情報を生かした帰還性の解析をして、Marine Ornithology(海洋鳥類学)用の投稿原稿を作成しCorresponding Author(責任著者)として投稿した。いくつかやりとりはあったが受理され、須川が提供したオオミズナギドリの写真が表紙の2014年4月号に掲載された。この論文では標識した成鳥が標識地点付近に帰還することを明らかにして、経年的に一定の傾向があることを示した。Web版公開されている雑誌なので反応は早く、ACAP(ミズナギドリ類保護協定)というサイトで、この論文は『オオミズナギドリもやっぱりふるさとが一番』として紹介された。
 編集委員とのやりとりの際に、幼鳥標識された個体の帰還状況はどうなっているかと問われたが、それは今後の課題と答え、今回のポスター発表で扱った。幼鳥標識情報を扱う上での課題であった、成鳥標識に比べてサンプル数が少ない点は、1977年から1983年の紙データから追加することによって解決し、成鳥標識結果と同じ手法で分析して、成鳥標識の結果と比較して示した。
 IOCにおける他の鳥の幼鳥分散や繁殖帰還性についての発表では、グラフは営巣地から数百kmの横軸で表現する例が多かったが、オオミズナギドリでは、標識した区画から数十mの横軸で表現する、いわば「森でなく盆栽のようなスケール」である点に注目してもらった。成鳥に比べると幼鳥標識された個体は、帰還性の程度は低いものの、やはり最初の標識地点(巣立ち区画)近くに帰還する。
 30年を越える経過年数(幼鳥標識の場合は年齢)で再捕地点の距離分析をすると、幼鳥標識個体は、若齢時は最初の標識地点から離れているが、老齢になるにつれて、最初の標識地点に極めて近づいた。帰還指数(帰還性が高いと数値が高くなる)は、幼鳥標識個体は年齢と正の有意な相関を示した。なぜこのような傾向を示すのかを複数回再捕された個体の情報から探ったところ、年齢の増加とともに最初の標識地点(巣立ち区画)近くに移動した例が確認された。長期的調査により、幼鳥標識個体からも「やっぱりふるさとが一番」が見えてくる。

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牧草地周辺での標識調査について
中田達哉((株)野生生物総合研究所)

 北海道の耕作地面積は、日本全国の約25%を占めており、その55%は牧草やデントコーンなどの飼料作物を育成する畑である。中でも牧草地には様々な鳥類が生息しており、ウズラやヒバリのように牧草地で繁殖していると思われる種もいる。しかし、鳥類の繁殖時期である5月から6月にかけて肥料散布のトラクターが侵入する事や、採草作業が行われるため、実際に繁殖に成功している鳥類の数は少ないのではないかと思われる。発表者は牧草地に生息する鳥類に興味を持ち、2014年から牧草地周辺で標識調査を行っている。今回は昨年から今年までの調査結果をとりまとめ、今後の課題と展望について発表する。

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ハブへのモビングを利用したヤンバルクイナの捕獲方法
尾崎清明(山階鳥研)・渡久地豊(工房リュウキュウロビン)

山階鳥類研究所では主に2003年からヤンバルクイナの生態研究を実施しているが、本種は無飛力であるため、カスミ網では捕獲できない。そこで、その他の安全かつ効果的な捕獲方法の開発が必要となる。これまでに実施した方法は、@樹上の塒における手取りなど、Aかご罠、Bボウネット(自動無双網)に大別される。ただし、@は実施する条件(接近可能で低い塒)が限られており、捕獲に至ったのはわずかである。したがって、主にAとBで捕獲を行っている。
一般的に捕獲効率を上げるためには、以下の条件などを満たすことが重要と考えられる。
・生息密度の高い場所(および時期や時間)を選択する、・適切な捕獲具を用いる、・効果的な誘引方法を選びかつ効果を持続させる、・捕獲者および捕獲具への警戒を軽減する、・捕り逃しを防ぐ、など。
捕獲具に関しては、従来用いていたかご罠を、片側扉から両面扉にすることで捕獲効率が高まった。さらにボウネットの導入によって飛躍的に効率が良くなった。また、誘引の音声は、複数個体の様々な声を状況によって適宜変更する方法(無線スピーカーの導入)によって効果が高まった。しかしながら、いったん誘引された個体も、周辺に「ヤンバルクイナ」がいないことが判ると、早々に捕獲具周辺から遠ざかり、その結果捕獲に至らないことが多かった。そして誘引効果の持続については、なかなか良い方法が見つからなかった。
そんななか、野外でヤンバルクイナがハブにモビングする行動が観察され、これを用いて捕獲を試みることとした。用いた「ハブ」は実際にヤンバルクイナの成鳥を捕食した体長160cmの個体で、これを剥製にした。その結果、音声誘引によって近づいた個体が、「ハブ」をみつけると、多くの場合警戒の声をだして、その場所を離れず周囲をなんども廻る行動をとることが観察された。ボウネットを仕掛けない実験では、その行動は30分近くも継続し、複数個体が関与したこともある。
かご罠を用いた捕獲では、2003-2007年の5年間での捕獲数が40羽余りにとどまったが、上記のボウネットを用いた捕獲では、2014-15年(8月まで)ですでに30羽(うちハブ使用は20例)と大きな成果を挙げている。こうした天敵へのモビングを利用した鳥類の捕獲は、フクロウ類を用いた「ヅク引き」や、赤イヌ(キツネへのモビング)やイタチを用いたカモ類の誘引等が知られているが、ヘビを用いたものの報告は見当たらず、今度新たな手法として地上性のクイナ類やキジ類をはじめ、応用できる鳥種もあるのではないだろうか。本研究は、環境省研究総合推進費(4-1302)によって実施している。

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DNAバーコーディングと鳥類標識調査
○齋藤武馬・浅井さやか・浅井芝樹・岩見恭子 (山階鳥研・自然誌研)

 DNAバーコーディングとは、種が分からない個体のDNA配列を照合して種を同定する技術のことで、鳥類に限らず全生物種を対象としている。照合対象となるデータベースを作成するため、DNA配列データとDNA抽出元の証拠標本の登録と公開が世界的プロジェクトとして現在も続いている。具体的な作業の流れとしては、1) 鳥の死体から標本を作製する。2) 死体から得られた筋肉等の組織からDNAを抽出して、プロジェクトが定めている特定の短いDNA配列 (ミトコンドリアDNA、COI領域約650bp)を解読する。3) 1と2をDNAバーコーディングのデータベース(BOLD, Barcode of Life Data Systems) に登録するというものある(図)。山階鳥研では、2008年から国立科学博物館と共同で上記の作業を開始し、2014年に日本産繁殖鳥類種234種、1,364個体分のDNA配列と標本データをデータベースに登録・公開した(*注参照)。このデータの公開により、野外で拾った一枚の羽毛や一滴の血液からでさえ、DNA配列を調べれば、種を同定することが可能となった。さらに、この技術を使えば、外部形態では区別が難しいが生殖的に隔離されている、隠蔽種の発見も期待できる。
 本発表では、DNAバーコーディングの概要と成果を紹介するとともに、この技術が標識調査(種・亜種の同定、渡りのルートの解明等)にどのように活用できるのか、その実例や将来の可能性について論じる。さらに、この技術の分析能の限界や、かかるコスト(学術捕獲許可申請の手続きや実験室の整備等)が必要となる等、様々な問題点についても述べる。また、本研究はバンダーの皆様から送付された死亡鳥も一部活用しており、その貢献についても紹介する。
*注
公開データベース:BOLD Systems : http://www.boldsystems.org
発表論文:Saitoh T, Sugita N, Someya S, Iwami Y, Kobayashi S, Kamigaichi H, Higuchi A, Asai S, Yamamoto Y & Nishiumi I.(2015) DNA barcoding reveals 24 distinct lineages as cryptic bird species candidates in and around the Japanese Archipelago. Molecular Ecology Resources 15 (1) 177-186. DOI: 10.1111/1755-0998.12282

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バンディングデータの利用
(公財)山階鳥類研究所保全研究室 吉安京子

 全国各地のバンダーが行う鳥類標識調査で得られたデータは、山階鳥類研究所のバンディングセンターに集められ、いくつものチェック訂正を行った上で、年単位ファイルにまとめられる。そのファイルもさらにチェックされ、放鳥データベース(RING.dbf)に追加される。1978年から2013年のデータ数は500万弱で、環境省(当時は環境庁)設立以来、1972年から2013年のデータ数は530万に上る。
 また、標識調査中のRCデータは、年単位ファイルから抽出され、回収データベース(RECOV.dbf)に追加される。回収データには、一般からの回収報告とバンダー間回収が含まれ、すでに1961年からデータベース化されている。1961年から2013年の回収データは3万3千を超える。
 これらのデータベースは、回収があった場合の放鳥データ検索や、データ利用申請があった場合にデータ抽出の元となる。
 標識データの利用については、バンダーだけでなく多くの方に利用できるよう、環境省と山階鳥類研究所とで「鳥類標識調査データ管理利用規程」を定めて、平成22(2010)年7月1日から施行されている。毎年10~35件の利用申請があり、主な利用者は多い順にバンダー、研究者、行政機関、民間団体、海外研究機関などである。また、その成果公表の方法は多い順に論文、報告書、学会等発表、行政内部資料、鳥類関係機関誌、地域自然誌、研究資料、データの共有、出現記録の整理、紛失データの復帰、啓蒙用パンフレット、新聞記事、webサイト、展示など多岐にわたっている。

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