中池見湿地保全と鳥類標識調査

吉田一朗


中池見について

 福井県敦賀市の中池見は、袋状埋積谷といわれる特異的な地形で、湿地の周囲が山に囲まれている。中池見湿地といわれる部分は、標高約47m、面積約25haの内陸低湿地で、泥炭層が厚く堆積している。ほぼ全域が水田の時代もあったが、現在はヨシ原などが広がる湿地となっている。貴重で豊かな自然が残っているにもかかわらず、大規模な開発計画が問題になっていたため、より詳しく調査すべきと考え、2000年に鳥類標識調査を開始した。その後、多くの人たちの働きかけにより、中池見湿地は2012年7月にラムサール条約湿地に登録された。
標識調査の概要
 標識調査は、2000年から毎年行ってきたが、調査日数や季節は年によって異なる。網場は中池見湿地内に設置することが多く、林などでも調査した。網の枚数は20枚前後(最近はもう少し多い)で、主にATXとHTXを3:1くらいの割合で使用した。多くのバンダーに協力いただき、調査日数や放鳥数も増えた。
  中池見付近では文献も含めて167種の鳥類を確認したが、そのうち13年間の標識調査で放鳥されたのは65種になる。すべての月の記録を残すことができたが、毎年調査したのは10月のみで、1月はほとんど調査していない。レッドデータブックに記載されているノジコが、秋の渡りの季節に多く捕獲されることから、10月のノジコの調査に重点を置くようになった。
 標識調査を続けることによって、通常の観察では分かりにくい鳥の生息状況や移動状況等が分かってきた。秋の渡りにおいては、すぐに通過せずに中池見付近に滞在している個体がいることが確認された。また、福井県内では確かな記録がなかったマキノセンニュウが、少数ながら中継地として利用しているらしいことも確認された。
ラムサール条約湿地とノジコについて
 調査初年度から、レッドデータブックに記載されているノジコが48羽放鳥されたことから、ノジコを重視した調査を行うようになった。他のバンダーにも協力いただき調査日数が増え、ノジコだけで1000羽を超える年も出てきた。早い年で10月4日から捕獲され、20日過ぎ頃に数が減りだし、11月上旬にはほとんど捕獲されなくなる。4月と5月にも記録があるが、繁殖の可能性は今のところ低いと考えている。捕獲場所のほとんどは中池見湿地で、下流の谷(後谷)でも少し記録されるが、林では稀である。
 中池見湿地がラムサール条約湿地の登録を目指していたことから、ノジコの渡りの中継地がラムサール条約の登録基準に該当するのではないかと、関係者の方々から働きかけを行っていただいた。その結果、ラムサール条約湿地の登録の理由の1つとして、ノジコが記載された。中池見湿地について記載された書類(RIS)には、基準2として「The Japanese yellow bunting regularly uses this wetland as a migratory spot.」と書かれている。水鳥ではなく小鳥が登録理由となったのは、仏沼のオオセッカ以来と聞いている。
 観察が難しい小鳥の中継地であっても、標識調査で重要であることが確認できれば、鳥や生息地が守られる可能性があることを示していただいたようにも思われる。
今後の課題など
 現在、最も心配なことは、中池見湿地下流の後谷から東南側の深山にかけて、新幹線を通す計画があることである。2012年からは、新幹線の影響が大きいと思われる地域について、標識調査を含む鳥類調査を増やすようにしている。少しでも中池見の環境が保たれるよう、調査結果を生かしてもらえないかと考えている。
  中池見をどのように残すのかについては色々な意見があり、今後も検討が必要である。また、中池見湿地と天筒山の間を通る国道8号の車線を増やす計画もあり、ラムサール条約湿地に登録された地域であっても、安心はできないと感じている。


2013年度日本鳥類標識協会全国大会シンポジウム講演要旨

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