2012年度新潟県におけるノジコの標識結果と中池見湿地の関係
渡 辺 央、木 下 徹 (新潟県野鳥愛護会)



 はじめに
 ノジコは、日本の東北から中部地方に局地的に繁殖するホオジロ科の1種である。冬期は中国南部、台湾、フィリピンなどに渡り越冬する。ノジコの秋季の渡りについての様相は、日本各地の標識調査でも捕獲数が少ないことから、その実態はほとんど知られていなかった。2002年10月に福井県敦賀市の中池見湿地で大量のノジコが標識、放鳥された後、2004年度から新潟県長岡市の中山間地のヨシ原でも毎年標識場所を変えながら調査した結果、いずれの場所でもノジコが多数捕獲された。つまりノジコは、秋季の渡りに際しては中山間地のヨシ原を利用していることが明らかになった。同時に渡りの最盛期は、10月上旬から中旬にあり、カシラダカやアオジより早いことがわかった。長岡市では2009年度からの調査地を西山丘陵地から東山の中山間地に移したところ捕獲数はさらに増加し、2010年度には806羽を放鳥している。放鳥数の増加に伴って中池見湿地との間にリカバリー(RC)が記録されるようになり、両地域間における移動性が明らかになりつつある。新潟県ではノジコの地域間の移動性をさらに知るため、2010年度から長岡市よりも北へ約28km離れた下越地方の五泉市や加茂市でもノジコの標識を目的に調査を開始し、2012年度には加茂市下条で169羽が捕獲、放鳥された。それに伴って長岡市比礼と加茂市下条それに中池見湿地の3地域間に新たに4例のRCが記録された。
 
長岡市比礼と加茂市下条における2012年度の放鳥結果
 長岡市では2010年度から東山の中山間地比礼で調査を実施している。2012年度は、9月29日から10月27日(実質調査22日間)まで、網(ATX)11枚を張り、新放鳥915羽、再放鳥8羽(Rp3、Rt4、Rc1)の合計923羽を放鳥した。日別放鳥数を見ると100羽以上放鳥した日は、10月8日(103羽)と10月11日(109羽)であった。この2峰の出現は2010年度、2011年度の結果とほぼ同様であった。
 加茂市の調査は長岡市同様、低山帯の中山間地である加茂市下条で実施している。ここは、沢沿いにできた約300u足らずの狭い湿地のヨシ原である。10月7日から10月16日(実質調査9日間)までの間、網(ATX)7枚を張り、新放鳥166羽、再放鳥3羽(Rp1、Rc2)の合計169羽を放鳥した。日別放鳥記録を見ると10月10日(30羽)と10月14日(29羽)が多く、長岡市比礼とほぼ同様の2峰型を示した。初めての調査でしかも狭いヨシ原にも関らず169羽の放鳥が記録されたこと、さらにその放鳥数の中で、中池見湿地と長岡市比礼との間でRCが記録されたことは、山間地の湿地や放棄水田に形成されたヨシ原がノジコの渡りにとっていかに重要であるかを物語っている。

 新潟県と中池見湿地間における移動性
 2010年10月7日に長岡市比礼で放鳥されたメス幼鳥1羽が1週間後の10月14日に中池見湿地で回収された。2012年度に新たに加茂市下条で調査が開始されると、早くも同年に長岡市比礼と加茂市下条の間に2例、長岡市比礼と中池見湿地、加茂市下条と中池見湿地の間でそれぞれ1例の合わせて4例のRCが記録された。また、2010年度に長岡市比礼と中池見湿地の日別放鳥数を対比したところ、両地域とも第1回目のピークと2回目のピークがある2峰型を示し、その2つのピークは、いずれも北に位置する長岡市比礼で早く、348km南に位置する中池見湿地で約1週間遅かった。このような2峰型の出現パターンは2012年度も同様であった。

2013年度日本鳥類標識協会全国大会シンポジウム講演要旨

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