琵琶湖の湖北地方の湿地保全と鳥類標識調査

植田潤(湖北野鳥センター/琵琶湖水鳥・湿地センター


湖北地方は遠浅の湖岸が広がり、湖岸が比較的自然な状態で残されている地域である。豊かな環境が残るこの地域は、琵琶湖の中でも野鳥にとって重要な地域である。この地域で確認されている鳥類は52科239種で、滋賀県全体の約70%を占めている。特に水鳥にとってこの地域は重要であることが琵琶湖全体のカモ類の分布からもわかる。
 1988年、滋賀県が野鳥の保護地域として湖北町の湖岸域約2kmを湖北町水鳥公園と定め、水鳥を含む野鳥保護の地域と定めた。その中心施設として「湖北野鳥センター」(以降野鳥センター)が建築された。また1997年には、琵琶湖でのラムサール条約の啓発施設として環境省が「琵琶湖水鳥・湿地センター」(以降湿地センター)を併設し、現在は地元長浜市(旧湖北町)で両センターを合わせて運営している。
 両施設は野鳥を中心とする自然観察を通して、野鳥の保護・環境保全の啓発を目的としている。センターの啓発活動は、様々な調査や研究に支えられている。特に鳥類の渡りや生活に関する情報は鳥類標識調査からの知見によるものである。標識調査や研究の視点を広く一般に活かした活動とその歴史を紹介したい。

◆オオヒシクイが支える湖北の湖岸
 この地域を代表する鳥の一つにオオヒシクイ(Anser fabalis middendorffii)がある。オオヒシクイはヒシクイの一亜種で、主に日本海側で越冬し、湖北地域が日本の越冬分布の南限にあたる。 越冬状況は湖北野鳥の会の清水氏により1979年より正確に記録され、各年の越冬数などが把握されている。
 1986 年カムチャツカ半島の北西部モロシェチナヤ川流域のズベズドカン湖で首輪標識されたオオヒシクイが、日本海側の飛来地で相次いで発見された。湖北地方には1987 - 88年の冬に、4 羽の標識個体が初めて確認された。標識調査の結果から湖北地方が飛来地の南限にあたることが確定となり、また福井県、石川県、新潟県と常に行き来している不安定な越冬地でもあるということがわかっている。標識調査の成果としては、こういった生態の解明以上に、湖北地方と日本各地や海外の飛来地を結び付け、また地元の湿地全体の保全活動自体を確実に推進させた。飛来地をつなげ、生息環境を保全する地元の意識を高めるうえで標識調査が大きな原動力となった例と言える。

◆鳥類標識調査の視点を取り入れる
 標識調査において、鳥の行動や生態の把握は重要である。鳥がどういった環境を好み、どんな環境をいつどのように利用するかを自然に考えながら調査している自分がいる。バンダーが普段見ている視点をわかりやすく一般の人へ伝えられるように心がけている。そのことが自然環境を幅広く見られ、視野の広い保全活動への啓発へとつながるのではないかと考えている。


2013年度日本鳥類標識協会全国大会シンポジウム講演要旨

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