公開シンポジウム 鳥類標識調査と湿地保全 開催趣旨および討論進行のためのメモ
進行:須川恒
公開シンポジウム 鳥類標識調査と湿地保全
開催趣旨
野鳥を中心に湿地のさまざまな生き物の観察をするための湖北野鳥センターと、琵琶湖の湿地保全活動を啓発する琵琶湖水鳥・湿地センターが並置しているように、野鳥観察と湿地保全活動は密接な関係がある。一方、野鳥観察の質を深め、また湿地保全を科学的に進める上で鳥類の標識調査は大きな役割を果たす。この3角関係を明瞭にすることが求められている。
鳥類標識調査はさまざまな国際連携なしにはすすまない。また湿地保全も国際環境条約であるラムサール条約、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)といった国際的な連携が重要である。湿地保全や水鳥保護のための国際的枠組みを活かした標識調査は何かを考えることが課題の一つである。国際的枠組みについて尾崎清明氏に紹介いただき、海岸の干潟などの湿地保護につながる、国境を越えた調査例としてズグロカモメの調査について武石全慈氏に話題提供をしていただく。
1993年にラムサール条約湿地となった琵琶湖について植田潤氏に、2012に条約湿地となった敦賀市中池見湿地におけるノジコを中心とした標識調査を吉田一朗氏に紹介していただく。2012年にともに条約湿地となった円山川下流域・周辺水田について、ヨシ原の標識調査やコウノトリについて片岡宣彦氏紹介していだく。
さらに、2011年3月の東北大震災で影響を受けた湿地における標識調査地について、震災前に判明していた結果やその後の復興状況について、宮城県について杉野目斉氏に紹介していただく。
それらの話題提供を受けて、湿地保全をより効果的にすすめていくために鳥類標識調査をどのように進めていけばよいのかの課題を共に探りたい。
□ 公開シンポジウム 「鳥類標識調査と湿地保全」討論進行のためのメモ(作成 須川恒)
・鳥類標識調査は多様な湿地環境で実施されている。河川敷、湖岸、池岸、干潟、海岸林など水陸の多様な移行帯で、さまざまな季節に調査が実施されている。6つの講演以外にも、13日の一般講演のうち7つは湿地環境や、ノジコにかかわる発表である。全国の鳥類標識調査の多くが、湿地環境で実施されていることをあらためて認識すべきではないか。
・湿地の保全や保護、湿地にかかわる種の保護にプラスになっている事例の報告もある。同時に保護・保全上のさまざまな課題が残されていることも明らかになった。これらの点をどのように解決していけばよいだろうか。
・湿地の持続的利用を目的としたラムサール条約の諸活動や、水鳥フライウェイにかかわる国際的プログラムがある。鳥類標識調査にかかわる人々は、これらの取り組みやプログラムを意識的に活用する姿勢を持つことが必要ではないだろうか。
・標識調査地の情報はあまり公にはされない。一方で湿地を保全するためには、積極的にその成果を公にして、湿地保全につながる、例えばに重要な調査結果が出ている湿地の目録を整備して公にして保全を進める必要があるのではないだろうか。
・湿地にかかわる鳥類の調査を効果的に進めるために多くの技術的課題があるのではないだろうか? カラーマーキング調査によって多くの観察者の協力も得て渡りの解明をする調査はもっと進める必要があるのではないだろうか。そのための課題は多い(捕獲法、マーキング製作・装着、マーキングポータルサイトなど)。
・湿地にかかわる鳥類の標識調査における識別力を高めるために、課題となる種をしぼりこみ、識別マニュアルの整備を進める必要があるのではないだろうか? 多くの湿地の野鳥にかかわる観察者との連携を進めるためにも、野鳥観察者にとっても役立つ識別マニュアルをつくる必要があるのではないだろうか。