シギ・チドリ類のカラーマーキング調査と湿地保全

尾崎清明(山階鳥類研究所保全研究室)


多国間を長距離行き来する渡り鳥の保全には、国際間の情報交流と協力が必要であることは言うまでもない。そうした観点から日本は、米国、ロシア、中国、オーストラリアとそれぞれ二国間の渡り鳥保護条約を締結しており、ほぼ隔年で会議を行っている。ただし、日本の渡り鳥が利用する地域にはこのほかにも多くの国があり、本来それらを包含した多国間の条約が望まれるところである。残念ながら日本は国際的な移動性野生動物種保全に関する条約(ボン条約)にも加盟していない。
 そこで、条約ではないが、実際の情報交換や生息地間のネットワーク化を目的とした、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFPhttp://www.eaaflyway.net/)という枠組みが2008年に発足した。現在までにこの地域の19ヶ国(地域を含む)と11団体が参加しており、地理的には日本の渡り鳥が利用する範囲の大部分が含まれることになる。この中にはシギ・チドリ類、ガンカモ類、ツル類、海鳥類、鳥インフルエンザのワーキンググループと、水鳥の個体数と生息地モニタリング、カラーマーキング、クロツラヘラサギなどのプロジェクトチームがある。
 シギ・チドリ類のカラーマーキングは、特にオーストラリアが活発で、そのほか、日本、台湾、中国、韓国などが活動しており、多くの移動観察例が集まってきている。当初はカラーフラッグの組み合わせで地域識別していたが、近年は数字やアルファベットを刻印したフラッグを用いて個体識別も行うようになったため、「回収記録」として扱えるものも多くなってきた。
 こうした具体的な鳥の移動が判明することにより、情報交流が進み、ネットワーク間の連携が強化され、干潟など湿地の保全に貢献することが期待され、いくつかの実例も見られるようになってきた。
 今後、カラーマーキングの観察・報告例を増やすためには、ウェブ上で観察報告の入力と放鳥記録のフィードバックを可能とすることが急務と考えられ、日本鳥類標識協会と山階鳥類研究所の標識センターとの連携も求められている

2013年度日本鳥類標識協会全国大会シンポジウム講演要旨

戻る