円山川における鳥類標識調査とヨシ原
片岡 宣彦
兵庫県豊岡市赤石地区から下鶴井地区にかけての河口から約8kmの右岸川側河川敷には、まとまったヨシ原が広がっている。昔はおもに水田として利用されていた。古くは田鶴野と呼ばれ、現在は小学校にその名を残している。このヨシ原で1991年から実施された標識調査について概略を報告する。
1991年から2012年までの新放鳥は66種、17490羽であった。再捕獲はリピート(同地放鳥後6か月以内の回収)が24種464例、リターン(同地放鳥後6か月以降の回収)が12種124例、リカバリー(他所放鳥同地回収)が3種148例が記録された。リカバリーのうち、シーズン内のリカバリーはツバメ2例、コヨシキリ2例、オオジュリン67例が得られた。シーズン内に回収されたオオジュリンの放鳥地の多くは秋田県、新潟県、石川県、鳥取県など日本海側であったが、青森県から2例、宮城県から6例、福島県から1例、静岡県から1例、愛知県から2例など太平洋側からの移動を示すものが12例あった。滋賀県からのものも1例あり、琵琶湖周辺で、太平洋側から日本海側へ移動しているのかもしれない。これらの移動を確認できる回収例を含め、シマセンニュウ、コヨシキリ、ノゴマといった潜行性の強い種が、毎年ごく普通に円山川を通過していることなどが明らかになるなど、ヨシ原での標識調査の果たす役割は大きい。
2004年10月20日、台風23号による大雨で円山川が氾濫し、大きな洪水被害をもたらした。治水工事が進む中一時的にヨシ原が減少しているが、2012年4月円山川の下流域が国指定鳥獣保護区に設定され、2012年7月ラムサール条約に「円山川下流域及び周辺水田」として登録された。登録範囲は円山川の河口より約10km付近までの水田地帯を含む約560haである。選定基準のうち、基準2:絶滅危惧種と特定された種(絶滅危惧T類・U類に該当)、または消滅の危機に 瀕している生物群集を支えている場合には、その湿地は国際的に重要であると考える(※野生復帰をした種についても対象とする)、というものがあり、コウノトリの野生復帰事業が評価されている。
2005年より始まったコウノトリ野生復帰事業により、放鳥個体とその子供を合わせ現在76羽が豊岡市周辺に生息し、その中には野生の個体も1羽混じっている(兵庫県立コウノトリの郷公園)。コウノトリは直接ヨシ原を利用しているわけではないが、コウノトリ野生復帰、ラムサール条約登録と続く流れの中で、湿地としてのヨシ原が、ただ開発されるのを待つだけの休閑地という認識から大きく変わろうとしているのではないだろうか。
2013年度日本鳥類標識協会全国大会シンポジウム講演要旨