(2012年日本鳥類標識協会大会シンポジウム講演要旨 図略)
ツバメの国外回収と越冬地での調査
尾崎清明(山階鳥類研究所)
ツバメHirundo rusticaは北半球で広く繁殖し、冬季は南に渡って越冬する渡り鳥として知られている。しかしながら日本周辺での繁殖個体群と越冬地との関連や、越冬期の生態に関しての情報は不足している。これまで、多くのバンダーの協力によって得られた日本と国外関連の標識回収記録を分析するとともに、近年インドネシアやマレーシアなどの東南アジア諸国での調査によって判明した日本のツバメの新たな回収記録を示す。また、越冬地での集団塒の個体数や羽色による個体群構成について報告する。
ツバメに関しては日本国内で1961年から2011年の51年間に、約24万羽が標識放鳥され、国内外で415例の回収が得られている。このうち国外との移動を示すものは97例である。国別に例数を列挙すると、フィリピン(52例)、台湾(32例)、ベトナム(4例)、マレーシア(3例)、中国(2例)、ロシア(2例)、インドネシア(1例)、韓国(1例)である。なお、台湾での記録はすべて、2-4月と9-10月の渡り期のものであり、12-1月の越冬期の記録は得られていない。
山階鳥類研究所では環境省・文科省のODA事業や民間の助成金を受けて、1990-2001年の間に、タイ、インドネシア、マレーシアの計14ヶ所でツバメの標識調査を実施した。その結果、合計で17,144羽を標識した。マレーシアからは従来半島部との2例の記録があったが、1997年12月にサバ州(ボルネオ島)で標識調査を実施したところ日本からの回収が得られた。インドネシアの1例も同様に日本からでかけて標識調査中に発見したものである。このようにこれまで標識調査があまり行われていない地域で、今後日本のツバメの越冬が新たに確認される可能性は大きい。
また同時にツバメ集団塒の個体数をカウントした結果、タイでは4個所計約22万羽、インドネシアではジャワ島の6個所計約5.5万羽、ボルネオ島の1個所約5.5万羽、スマトラ島2個所0.5万羽、マレーシアではサバ州(ボルネオ島)で7個所計約30万羽、合計約63.5万羽を確認した。
このうちタイでは1994年に北部のナン、中部のバンコク、南部のベトンとサトンの4個所で合計約3,500羽を捕獲したが、その際約66%の個体について下面の羽色に注目して、白色のものから濃褐色までの4段階に区分して性・齢別に記録した。その結果、性別に関しては雄が雌より色が濃い傾向があり、年齢に関しては成鳥が幼鳥より濃い傾向があった。地域別に比較すると、成鳥で南ほど色が薄い個体の割合が多く、北ほど濃い個体の割合が多くなった。こうした羽色の違いは亜種や繁殖個体群の相違によると推定され、今後これらの羽色の違いと測定値や遺伝的分析などとの関連性について調査する必要がある。
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