(2012年日本鳥類標識協会大会)
公開シンポジウム 「ツバメの生態と標識調査」 企画文
ツバメは、われわれ人間にとって最も身近な鳥類のひとつである。人家の軒下に営巣するため、子育ての様子を詳細に観察することも可能である。そのため、古くから童話や絵本に登場することも多い。生活史を紹介した書籍も多数ある。しかしながら、繁殖を終えたツバメはすぐに旅立つのだろうか? ツバメが冬のあいだはどこに行っているのか、渡りのときはどのように移動しているのかといったことは、一部の人たちを除いてあまり知られていない。たとえば、日本で繁殖をするツバメの越冬地は東南アジアと言われているが、具体的にはどの国なのだろう? 換羽はいつおこなうのだろう? 成鳥と幼鳥は一斉に渡って行くのだろうか? さらに、渡りの時期の塒はヨシ原と言われているが、そこは開発されやすい場所でもある。ヨシ原をめぐる諸問題は、ツバメの適応度に関係する重要な事柄かもしれない。
今回の公開シンポジウムのテーマは、「ツバメの生態と標識調査」である。大会会場の近くを流れる多摩川にはツバメの集団塒があること、大会開催の時期もツバメの渡りの時期であるため、旬な話題だと思われる。ツバメの集団塒で標識調査をされている方もいることだろう。この機会に、個々人の貴重な経験を全国の方々と共有し、ツバメの生態や渡りについての理解が深まれば幸いである。
シンポジウムでは最初に、基調講演として「多摩川流域ツバメ集団ねぐら調査連絡会」の渡辺仁氏に、多摩川の代表的な塒における個体数の季節変化や塒環境の選好性、塒入りの時刻など、多摩川の集団塒の実態についてお話していただく。また、一般の観察者と標識調査との連携によってツバメの謎を明らかにする可能性にも触れていただく。
つぎに、長期間にわたってツバメの標識調査を実施されている3名の方に話題提供をお願いした。尾崎清明氏には日本のツバメの海外回収の事例と越冬地における調査の状況を報告していただく。越冬地で捕獲された個体の下面の羽色の違いは、何によるものなのだろうか?
真野徹氏には、7月中旬から9月下旬までの調査で明らかになった3つの換羽パターンについて報告していただく。換羽休止中の個体の割合が、地域や季節によって違っているのはなぜだろう?
最後に、須川恒氏にはツバメの生態を理解するためには集団塒という現象に注目することが重要であるという視点から、ツバメの集団塒地となるヨシ原の重要性について報告していただく。
総合討論ではツバメの集団塒を軸に、これまでの調査・研究から明らかになっていること、興味深い行動、これから明らかにすべきである課題などを討論したいと思う。