礼文島におけるサシバの標識と観察記録から
江別市 富川 徹

 サシバButastur indicusは、極東の限られた記息で?殖する種である。?殖地域は、アムール地方南部、ウスリー地方、中国の東北地方から河北省まで、それに日本の東北地方から九州までである(森岡ほか 1995)。
 確認記録では、青森が最北になっており、北海道における本州の確実な記録はない。筆者は、北海道礼文島(礼文郡礼文町字船泊)において2003年5月、鳥類標識調査中にサシバ1羽を捕獲し放鳥した。また、2005年および2007年に同地周辺で採餌行動および飛翔移動する個体を観察した。
 近年、里山を中心に生息するサシバの減少が危惧されており、環境省のレッドリスト見直し(2006.12.22)においてランク外から絶滅危惧II種になった。
 本種の捕獲(標識)事例としては、北海道初記録であるので、捕獲状況と合わせて観察状況を報告するものである。

 捕獲場所は、礼文島北部の久種湖東側、標高15mの丘陵地の沢部である。沢は狭くミズバショウ、ザゼンソウ、エゾノリュウキンカなどの湿生植物が生息し、両斜面部はトドマツ(植林)やヤナギ類などの針広混交林である。
 サシバの捕獲は、2003年5月11日の午後4時ごろ、カスミ網に追い込んで捕獲した。網にはシロハラ(メス)1羽、クロツグミ(メス)1羽がいずれも頭部のみが喰われた状態で残っていたことから、サシバによって捕食されたものと考えられる。なお、他の部分の損傷は見られなかった。またサシバ放鳥後の午後5時ごろにも本個体によるものと思われる全身が食われたルリビタキ(オス)1羽を回収した。その日は午後6時半ごろまで沢上空を低高度で飛翔するサシバが数回見られたが、翌日には姿を確認することはなかった。
 観察記録としては、2005年5月3日の午前9時から午後2時ごろと、翌4日の午前9時から10時ごろ、同島北部の大沢川中流部でサシバ1羽を目撃した。周辺の環境はオノエヤナギ、ケヤマハンノキ、ヤチダモなどの生育するやや広い河畔林であった。本種は、両日ともミズバショウやザゼンソウが群生する湿地の樹木に止まり、水面に降りてエゾアカガエルを捕らえ樹木に戻るという採餌行動が、3日に2回、4日に1回観察された。この両日に観察された個体は右翼の次列風切に明確な欠損があり同一個体と考えられた。その他の行動としては餌を求めての飛翔移動や、飛来するノスリやケアシノスリとともに旋回飛翔を確認した。その後5月5日〜6日、5月26日〜6月2日、7月4〜5日には確認できなかった。
 また、2007年5月1日の午前10時ごろ、久種湖南側の沢地の枯木にとまる個体を1羽確認したが、すぐに西側の山林方向に見失う。
 [資料]
  1 森岡照明・叶内拓哉・川田隆・山形則男(1995) 図鑑日本のワシタカ類(第2版). 文一総合出版、東京
  2 環境省資料 (http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=7849