日本鳥類標識協会2007年大会講演要旨集より

2006-2007年,関東におけるコアジサシのカラーマーキング個体の観察例

○桑原和之(千葉県立中央博物館)・箕輪義隆・佐藤達夫・長屋ゆみ子・田邊以久雄・奴賀俊光・白井妙生(千葉市野鳥の会)・茂田良光(山階鳥類研究所)


 コアジサシは繁殖終了後,東京湾岸では,国内の各地で標識された個体が確認されている.渡りの中継地の大きなねぐらも確認され,東京湾岸各地では,数千羽みられる.10,000羽以上の大きな群れを形成することもあり,特に千葉市内の海岸部の埋立地が,ねぐらとして極めて重要な地域であることが報告されている.標識個体は地域により異なるカラーマーキングがされている.カラーマーキングされている個体を効率よく確認するにはどのような方法があるだろうか?個体数が多くなるコロニーやねぐらでカラーマーキングされている個体を確認することは効率がよいに違いない.繁殖期に標識された個体を確認する野外調査を行ったので報告する.
鹿島灘から九十九里,東京湾岸の海岸部,印旛沼などの利根川水系を調査地とした.約100ヶ所の定点を決め,2006年から2007年にかけ繁殖期である4月から8月に,コアジサシを確認し,個体数を計数した.月に1回,1,000羽以上見られる地域では10日に1回,現地調査するように心がけた.調査では,コアジサシの個体数を数え,カラーマーキング個体の状況を記録した.観察条件がいい場合,成鳥夏羽,冬羽,第1回夏羽,第1回冬羽,幼羽,雛など識別し,齢や羽衣をできる限り区別し,個別に個体数を記録した.また,現地調査以外に,調査者以外の観察記録を収集した.
 2006年カラーマーキング個体の観察は,5例しかなかった.千葉県いすみ市で5月に2例,茨城県神栖市で7月に2例,千葉県市川市で7月に1例が得られた.
2007年は34例が得られた.6月に九十九里海岸で,大きなねぐらが形成される7-8月に千葉市から記録が得られた.千葉市17例,九十九里海岸12例,船橋市で8月に2例,市川市2例,いすみ市で6月に1例が記録の内訳はであった.
 市川市原木では,2007年7月10日18:45-19:30に1,446羽のねぐらが確認された.その後26日に右脚ふしょにメタルリング,左脚ふしょに青色カラーリングが標識された成鳥・夏羽1羽が確認された.旭市飯岡漁港で標識放鳥された個体であった.船橋市三番瀬では,2007年8月19日,右脚オレンジ色フラッグが標識された成鳥・冬羽が白川浩一氏により撮影された.オーストラリア南東部のビクトリア州で標識された個体であった.
千葉市美浜区検見川の浜では2006年は大きなねぐらはなかったが,2007年は個体数が多く7月22日2,500羽,8月3日最大2,650羽が記録された.カラーマーキング個体は,5月1例,6月1例,7月1例,8月上旬14例が確認されており,検見川の浜で個体数が多くなった時期に記録された.個体数は多かったが,標識個体が確認されない調査地もあった.2006年と2007年に埋立地の駐車場に大きな群れが確認された.2007年,幕張メッセ大駐車場では8月17日1,307羽,22日800羽,豊砂仮設駐車場では8月27日約20,000羽,28日15,000羽の塒が確認されたにもかかわらず,ねぐらに集合する時間が日没後であったため,2006年と2007年にカラーマーキングされている個体は1羽も確認できなかった.
 コロニーの形成される場所は,毎年変わり,流動的で,地域の個体数は年により大きく変化する.さらにコロニーでの個体数は,季節により大きく変化し,ねぐらが形成されると個体数は増加する.このねぐらが形成される頃に,採食場所やねぐら前集合場所での観察は,カラーマーキング個体を探し出す方法として最も効率がいいと考えられる.

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