カムチャツカ日露共同標識調査(1998)の概要速報 バンダーニュースNo.16

須川 恒
原田量介・加藤昇・武田由紀夫・三原学・杉山淳・鈴木高


 カムチャツカにおける日本鳥類標識協会主催の日露共同標識調査を, 9月5日〜17日に実施した.経費的には日本鳥類標識協会および,日本自然保護協会のプロ・ナトゥーラ・ファンドの支援のもとに行われた.
 日本側参加者は,山口県2名,北海道・静岡県・石川県・福井県・京都府各1名の計7名である.初対面の人達もいたが,共通して標識調査の基礎的な訓練を受けており,またそれぞれの得意の分野もあり、チームを組んで基礎的な情報を記録することができた.
 調査内容に関しては,昨年度の梶田様の予備調査の内容とほぼ同様であり,予備調査の報告が非常に役立った.また,ロシア側のリング体系の把握などいくつかの課題を克服してロシア側と効率的に協力していくことができた.
 調査は,9月5日〜6日と16日〜17日には,日本雁を保護する会がかかわっているエリゾボ市のシジュウカラガン増殖施設(53゚09'N,158゚24'E)で,4枚の網による調査をおこない,9月6日〜16日にはビストラヤ川源流域(53゚55'N,157゚42'E)で,42枚の網による調査を行った.
 全期間を通した新放鳥数は,30種計1569羽であり,これ以外に,昨年梶田様から報告のあったように足環を装着しなかったコガラ・ベニヒヒワ・イエスズメの3種計82羽がある.
 放鳥個体数の多かった種は,カシラダカ(803羽),ビンズイ(180羽),オオジュリン(130羽) ,メボソムシクイ(103羽) であり, 珍しい種としてはキンメフクロウ(4羽) ,オガワコマドリ(1羽),セジロタヒバリ(7羽)などがかかった.
 捕獲個体で印象的だったのは,セキレイ科が多かったことで,ビンズイ,セジロタヒバリ以外に,タヒバリ(55羽),ハクセキレイ(21羽)キセキレイ(6羽)を捕獲した.ビストラヤ川に小規模のハクセキレイの塒があり,中州に張った網でハクセキレイなどを捕獲した.
 再捕例は115羽と多かった.昨年の梶田様の調査のリターン個体も4羽(オオジュリン1羽,カシラダカ3羽,放鳥日未確認)が確認された.
 重要な成果は,日本からの足環をつけたオオジュリンを2羽捕獲できたことである.この個体のうち1羽(9月10日捕獲雌成鳥2F89140)は1997年10月28日に上野動物園の鈴木幸治氏が茨城県牛久沼で放鳥(放鳥時雌幼鳥)した個体(したがって1才)で,もう1羽(9月14日捕獲雄成鳥2K38604)は,1996年10月25日に中塩一夫氏が宮城県蕪栗沼で放鳥(放鳥時雄成鳥)した個体(したがって3才以上)であった.
 驚いたのは,オオジュリンの成鳥は19羽しか捕獲しておらず,そのうち2羽に日本の足環がついていた点である.8月にはオオジュリンがさらに多く捕獲できるとのことなので,来年度8月に調査を実施してオオジュリンを多く捕獲すれば,さらに日本との関係を確認することが期待できる.
 成幼の判定は,かなり慎重に行なったが,ほとんどが幼鳥か,まったく成鳥が確認できない種が多かった.8月も含めた調査を組むことで,渡りの開始時における成幼の差を把握できれば興味深いと思う.
 私は個人的には,カシラダカ雄の頭羽の黒色と栗色の比率に興味を持っていたが,今回全てのカシラダカの雄に関してその記録を行なうことができた.
 大城様からはメボソムシクイの個体差を見て来るように言われていたが,近畿で見られるような多様性はなく,モノティピックであった.
 片岡様からは,シラミバエを採集してくるように言われており,いっぱい集めてくることができた.福井から参加した三原様は,ダニを採集してくるように頼まれており,必死に探していたが,ついに一匹も鳥からは見つけることができなかった.

   なお、帰国直後に開催された日本鳥類標識協会大会総会(1998年9月19日箱根)においてこれらの内容を須川が参加者に紹介した。

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