2011大会要旨11

繁殖鳥モニタリング調査のめざすもの

                         尾崎清明(山階鳥類研究所)

 日本の標識調査は、他の国に比べて渡りや越冬期の調査が多い半面、一部の海鳥を除いて繁殖期の成鳥や幼鳥の調査が十分ではない。そのため渡りの起点が判らないことや、繁殖鳥の個体群動態の把握が困難である。イギリスで1981年から始まったCES(Constant Effort Sites)プロジェクト、アメリカで1989年から始まったMAPS(Monitoring Avian Productive and Survivorship)プログラムなどは、繁殖鳥の個体群動態モニタリングとして注目に値する。繁殖期に定量的な標識調査を多くの場所で長年継続することによって、幼鳥の捕獲数から年毎の繁殖成功率を、成鳥の再捕獲率からは生存率が導き出され、種毎の個体数の変遷を詳細にモニターしている。特にMAPSプログラムはチェルノブイリ原発事故をきっかけにして開始され、現在ではアメリカの400ヶ所以上で実施されている。ヨーロッパ各国ではフィンランドやフランスなどにも広がりつつあり、アジアでも台湾が開始したとの情報がある。
 今年、3月の震災で被害を受けた原子力発電所の放射能漏れによる環境への汚染が、野生鳥類にどのような影響を与えるのか、非常に注目されるところで、諸外国からもデータ収集調査の要請がある。
 そこで日本でも、上記のような繁殖鳥のモニタリング調査を開始しようとバンディングセンター事務連絡(2011-2)で呼びかけたところ、現在までに6名から参画の申し出がある。今後さらに調査地が加わり、来年以降より多くの地域で開始できることを期待している。
 ここでは主にMAPSプログラムの手法や現状を紹介し、日本での調査の参考としたい。

追記:本年10月の新潟県福島潟ステーションでの調査の際、オオジュリンの幼鳥の尾羽にかなりの頻度で、伸びすぎや短すぎ、虫食い状の斑などの異常が確認された。その後各地のバンダーからも同様の報告が集まってきている。現時点で認められる異常の状態を紹介し、更なる調査を呼びかけたい。

参照 MAPSプログラムのサイト
http://www.birdpop.org/maps.htm


戻る