2011大会要旨01

亜種イイジマホオジロEmberiza cioides ijimae について

茂田良光*・小倉 豪・今村知子

 ホオジロEmberiza cioidesはアジア東部の温帯地方,ロシアのアムール,ウスリー,沿海州,モンゴル,カザフスタン,中国の北部と東部,北朝鮮,韓国,日本,南千島に分布する。日本国内と南千島には亜種ホオジロEmberiza cioides ciopsis の1亜種だけが分布し(日本鳥学会, 2000),国外には4亜種が分布する(Vaurie, 1956, 1959 ; Paynter, 1970; Byers, Olsson and Curson, 1995)。対馬と壱岐および韓国の済州島の亜種は亜種イイジマホオジロE. c. ijimae とされたことがあったが(Stejneger, 1893 ; 日本鳥学会,1932,1942 ; 黒田,1933; 山階 1934),現在は亜種イイジマホオジロは亜種として認められず亜種ホオジロに含められ,韓国のホオジロは亜種ホオジロまたは亜種チョウセンホオジロE. c. castaneicepsに含められている(Vaurie, 1959 ; Paynter 1970 ; 日本鳥学会, 2000 ; Dickinson, 2003 ; Ornithological Society of Korea, 2009)。ここではホオジロの亜種のうち,亜種イイジマホオジロとされた対馬と壱岐および済州島のホオジロについて,とくに雄生体の羽色と外部形態から比較し,亜種の検討を行ったので,その結果を発表する。
 ホオジロの5亜種のうち,夏羽の雄では耳羽が黒いのは日本産の亜種ホオジロE. c. ciopsisだけである。したがって,夏羽の雄であれば,耳羽の色が黒色であるか,または暗赤褐色であるかにより,亜種ホオジロかどうかを識別することができる。また,胸に黒い斑または胸帯があるのも亜種ホオジロだけで,他の4亜種には赤褐色の胸帯がある。亜種イイジマホオジロは,Stejneger(1893)により対馬を基産地として耳羽が黒くないことにより新亜種として記載された。壱岐と済州島を亜種イイジマホオジロの分布域に含めたのは,日本鳥学会(1932 ; 1942)である。
 本調査によれば,個体差はあるのもの,壱岐・対馬産のホオジロ夏羽の耳羽は黒くはないが黒味を帯びた赤褐色で,胸の斑または胸帯も黒味を帯びた赤褐色であった。済州島のホオジロ夏羽の耳羽の色は黒くはなく,赤褐色で壱岐・対馬産のホオジロほど黒味はなかった。胸帯も同様に赤褐色で黒味はなかった。したがって羽色からは,壱岐・対馬産のホオジロは済州島産のホオジロに比べ亜種ホオジロにより近く,済州島産のホオジロは,亜種ホオジロよりも耳羽と胸帯の色から大陸産のホオジロの4亜種に近似していた。
 壱岐・対馬産と済州島産の雄の自然翼長,尾長,蹠長,露出嘴峰長,全嘴峰長,全頭長,口角長など25部位についてMann-Whitney のU検定を行った結果,有意差が認められたのはふ蹠長径,全頭長,口角長の3部位であった。同様に壱岐・対馬産と亜種ホオジロの雄では10部位で,亜種ホオジロと済州島産の雄では14部位で,有意差が認められた。亜種イイジマホオジロを亜種として認められるか,さらに済州島産のホオジロの亜種はどうすべきかという問題の解決には,DNAの解析を含めた研究も必要である。
*:演者


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