群馬県での森林性鳥類の標識調査(話題提供)

深井宣男(日本鳥類標識協会)

 日本では、効率よく多数の鳥類を捕獲できるヨシ原などでの標識調査と比較すると、森林での標識調査はそれほど多くは実施されていない。演者も20年にわたり、栃木県渡良瀬遊水地のヨシ原で標識調査を実施してきたが、森林性鳥類の調査を自分でおこなうことはなかった。
 今年、林野庁関東森林管理局と群馬森林管理署は、生物多様性のシンボルとしてオオタカが生息しやすい森林づくりに向け、群馬県安中市にある国有林1,756haを「オオタカモデル林」として整備をすすめることになった。今までのスギ、ヒノキを中心とした皆伐・一斉植林といった施行方法から、卓伐や天然更新により積極的に広葉樹を増やすことで生物多様性の維持・向上に寄与できる林業施行を目指すという計画である。演者は、この計画における鳥類相のモニタリングの一助として標識調査を利用することを提案し、ボランティアで参加することとなった。今回は、森林での標識調査初心者である演者が、どのように調査を開始し、どんな壁に当たったか、どんな成果を得られたかなどを簡単に紹介する。先輩諸氏からの助言をいただければ幸いである。

調査地の選定
 今回は国有林の特定の範囲内に調査地を設定する必要があったため、網を張る場所を尾根か沢か斜面途中にするかという点が、最初の問題点であった。すでに森林での調査を実施されている方々にご教示願い、尾根筋に張ることとした。

繁殖期の結果
 5月2日から6月12日までに、8日間延べ112.5時間の調査を実施した。結果は新放鳥24種116羽、再捕獲5種14羽(全てRp)であった。優占種はヒヨドリ(22羽)、メジロ(16羽)、ヤマガラ(13羽)、シジュウカラ(13羽)、キビタキ(11羽)、カケス(8羽)で、この6種で71.6%を占めた。この6種以外は4羽以下しか捕獲されず、このうち10種が1羽のみの捕獲であった。

調査の壁
 5月2〜4日には20種68羽、5月8〜9日には12種35羽が新放鳥されたが、5月15〜16日には7種13羽、6月12日には3種4羽と激減した。この原因として、@網に慣れてしまったために捕獲されなかったこと、A5月上旬は移動個体が捕れただけで、この調査地で繁殖する個体が少ないこと、B繁殖ステージとの関係で、5月中旬から6月中旬には捕獲されにくかったことなどが考えられる。観察種やその頻度、抱卵斑などから推測される繁殖ステージからは、全てが関係するが、Aが一番大きな原因であると考えられた。

興味深いこと
  全ての個体について、捕獲された網の場所と棚の高さを記録した。その結果、よく捕獲される網とそうでない網、よく捕れる網の高さがあることがわかった。当日は地形との関連なども含めて考察したい。また、Rp個体の捕獲位置の比較から、繁殖活動と行動範囲などについても何かわかることがないか解析中である。さらに、アオゲラとサンショウクイの齢の識別、カケスの性の識別などについて、分かった事と分からない事を、当日、写真で紹介する予定である。


 調査地の選定にあたって、飯田知彦、小畑義之、小倉豪、佐藤文男、齋藤勝義、森本元、木村裕一(順不同)の各氏にご助言をいただいた。特に飯田氏には、網の設置方法を含め、細部まで丁寧にご指導いただいた。みなさまに厚くお礼申し上げる。


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