松前白神ステーションにおける夏鳥早期飛去群に関する音声解析の試み 
発表者:道南バンディング研究会 佐藤 理夫

多くの渡り鳥が通過する北海道最南端の白神岬で、夏鳥の飛去群に注目して標識調査を行なってきた。日本と東南アジアを行き来する夏鳥の動向は、その一部しか解明されていないため、ここでは8月の早期渡り群の放鳥データを解析して、その動向を解明することを主眼に調査を継続している。2008年の調査期間中、夜間に上空を飛翔する小鳥類のCall声を録音し、その音声を解析することで、小鳥類の飛翔時間帯の特定と、放鳥数の日変動への関連性について報告する。
例年白神岬で行なっている8月11日から24日の14日間の標識調査として、5時から10字のモニタリング調査に加え、調査初日の前夜から、上空を飛翔する小鳥類のCall声を録音した。録音場所は、生活にかかわる音や環境にかかわる音の録音を極力避けるため、調査小屋から直線距離で50mほど離れた、なるべく上空の音を捉えやすい位置を選択した。録音の開始時間は19時とし、終了時間は3時とした。
収録された音声は、音響ソフトを用い、収録した音声を開始から終了まで機械的に聞きながら、確認できる小鳥類の音声について、掲示された時間カウントに従い記録し、音声の解析を行なった。Call声は、明らかに上空ではしていると思われるものについてのみ記録し、地上のものと思われるものは聞き流した。
Call声を捉えることができたのは14日間のうち11日間であった。このうち、Call声が最も多かったのは17日であり、この日をピークとしてCall声数は前後で少なくなっている。声の多い時間帯については23時以降がピークとなったのは7日間あり、このうち17日は、明らかな山形を示していた。逆に、22時前にピークとなったのは3日間であった。
モニタリング期間の放鳥数は1,265羽(20種)であった。調査期間を通じ、放鳥傾向は波形の増減を繰り返し、18日が最も多く、174羽(9種)を記録した。この日はCall声がピークとなった17日の翌日であった。23時以降にピークとなった日のうち、その翌日に放鳥数が減少したのは13日のみであり、他は前日より増加した。18日は悪天候により未調査であった。22時前にピークとなった日のうち、その翌日の放鳥数が増加したのは11日のみで、他は増加した。Call声の少なかった日の翌日の放鳥数は、いずれも前日の放鳥数より減少した。
音声収録については初年であるため、収録についての難しさがあった。特に、小屋周辺の生活音、この音には漁船の音も含まれ、Call声が聞き取れなかったことや、また、当たり前のことだが、環境音である風による葉が揺れる音、虫の声などが収録されており、そこからCall声を聞き取るに困難を伴った。17日に聞き取れるCall声が多かったのは、風が穏やかであったことと、生活音としての船外機の音などが少なく聞きやすかったという点が考えられるが、条件のよい日は15日にもあったにもかかわらず、Call数が少なかったことから、明らかに上空を渡る小鳥類の個体数が多かったのだろうと思われる。17日の他に、10日に比べて、11日でのCall数の減少が目立つが、これは、録音時間の関係上、11日の収録分から録音レベルを下げたためとも考えられる。
Call声が多い日の翌日に放鳥数が多い傾向になったが、明らかなものではない。気象の影響を伴う環境音による、騒音と思われる音声とCall声を容易に区別できる手法を確立することは急務である。さらに、波形や周波数帯によるCall声の特定については、時間の関係で試みることはできなかったが、これは今後の課題と思われた。


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