水田はケリの繁殖適地か?
脇坂英弥(兵庫県立大学)


はじめに
水田は採餌・ねぐら・営巣場所として多くの鳥に利用されることが知られている。ラムサール条約第10回締約国会議において日本と韓国の決議「湿地システムとしての水田における生物多様性の向上」が採択され、湿地生態系としての水田の生物多様性の重要さが世界に認識された。これによりさらに鳥の生息地としての水田の役割を把握することが必要となるであろう。
さて、水田を利用する鳥の代表種としてケリがあげられる。ケリは水田を主たる繁殖場所にする地上営巣性のチドリ科鳥類で、本州・四国・九州に局所分布している。水田は稲作の場として人為管理の下で維持される環境であるが、そうした環境においてケリがどのように繁殖しているのか興味深い。本研究では1)水田におけるケリの繁殖失敗の原因、2)繁殖失敗後の親鳥の動向、3)1年後のリターン率とペア関係を調査したので報告する。

調査地と方法
調査は京都府南部の巨椋池干拓地でおこなった(34.9°N,135.8°E,約750ha)。2007年と2008年3〜7月、4〜7日ごとに調査地を徒歩と自動車で巡回してケリの巣を探し、巣ごとにふ化の有無とふ化失敗の原因を記録した。また抱卵中の成鳥個体を捕獲して金属脚環と個体識別用のカラーリングを装着し、それらの追跡を行った。捕獲個体の性は血液から抽出したDNA(分子性判定)により決定した。

結果
調査の結果、2007年と2008年で合計91巣を確認した。そのうちふ化に成功したのは39巣(43%)、ふ化に失敗したのは52巣(57%)であった。失敗原因として最も多かったのが耕起33巣(63%)、次に多かったのが捕食17巣(33%)であった。
個体識別が可能になったのは成鳥28個体(オス12個体、メス13個体、不明3個体)であった。これらが関係する巣の内訳は、両親とも識別されているのが6巣、オス親のみが7巣、メス親のみが8巣、性不明の片親のみが1巣の合計22巣であった。これらを利用してふ化失敗後の親鳥の動向を調べたところ、2007年は同じペア相手と同所で再営巣したのが1例、メスが同一個体かどうかは不明だが少なくとも同一のオスが同所で再営巣したのが1例、調査地から離散して行方不明になったのが20例確認された。再営巣した2例はいずれもふ化に失敗した。2008年は同じペア相手と同所で再営巣してふ化に成功したのが1例確認された。2007年と2008年を合わせると、同所に再営巣した3例中ふ化成功に至ったのは1例であったことから、再営巣の繁殖成績は決してよくないことがうかがえる。なお、ふ化失敗の日から再産卵に要した日数は10〜14日であった。
2007年に個体識別した成鳥28個体のうち、翌年2008年の繁殖期にリターンしたのは39%にあたる11個体(オス6個体、メス5個体)であった。また昨年のペア関係が継続したかどうかを調べたところ、昨年と同じペアで営巣してふ化に成功したのが2例、昨年と異なるペアで営巣してふ化に失敗したのが3例であった。
識別個体の追跡データはまだまだ乏しく今後の蓄積が必要である。

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