キンクロハジロ(Aythya fuligula)は加齢と共に大きくなるか?

○本間隆平・千葉晃・白井康夫・山田清・木下徹
(瓢湖標識調査グループ)


 「白鳥の湖」として有名な新潟県瓢湖で標識調査を始めて以来、10シーズンを経過した。これまでオナガガモを中心にヒドリガモやコガモを標識してきたが、2003年からキンクロハジロも捕獲できるようになり、その渡りについても知見が得られるようになってきた。今回は回帰率の高いことに着目し、幼鳥と成鳥の体部計測値の変化について報告する。
 瓢湖は寛永年間に造成された潅漑用の人造湖(一辺約 300mの方形池・8.7ha)であるが、現在ではその役目を終え、1本の水路で涵養された水鳥の生息地として重要な役割を果たしており、本年10月、ラムサール条約の登録湿地となった。渡来する主な鳥類はハクチョウ類約 5,000羽、カモ類約15種15,000羽で、ここ数年、カモ類が減少している。キンクロハジロは10月に渡来し最高 200羽あまりが越冬する。3月下旬から4月上旬にかけて渡去し、その頃あまり目立たないが求愛行動が見られる。また、瓢湖では1日3回の給餌が行われているが、本種は90alが餌に集まってくる。私たちは、03/04 年から流入水と共に湖内に流れ込む餌を求めて導水管に入る個体を手製の大型手網で素早く捕る方法で作業を開始し、07/08 年までの5シーズンに 400羽以上を捕獲し、雌雄や成・幼鳥の形態差、体各部の計測値、回帰率などを調査してきた。捕獲鳥の性比は野外観察で得た概算結果と同じで雄に偏っており、その程度は幼鳥より成鳥で明瞭であった。また、過去5シーズンの合計回帰率(32.0%)はオナガガモ(3.2%)に比べてはるかに高いことが判った。海外からの回収例は2例(ロシア・ブリモフスキー・イリスタヤ川及びロシア・ハバロフスク・オホーツキー・オホタ川)得ている。
 私たちは、幼鳥で初放鳥され翌シーズン以降に成鳥として再捕獲された個体を選び、体各部の計測値を比較した。その結果、雄においては僅かながら成長することが判った。しかし、雌では例数が少なくそのようなことは認められなかった。

表.キンクロハジロの成鳥・幼鳥の体各部計測値(Weight以外、全て単位は mm)

♂(n=27)

 Wing

 Tail   

 Tarsus

Bill

Weight (g)

Juv.

197.4±5.90  

53.2±2.88  

34.2±1.23 

39,6±1.47 

787.7±105.81

Ad.

198.9±4.55  

55.6±2.15  

34.3±1.31 

39.9±1.72 

781.8± 83.67

♀(n=6)  

 Wing

 Tail   

 Tarsus

Bill

Weight (g)

  Juv.

190.5±5.99  

51.1±2.04  

34.1±1.89 

38.9±1.41 

780.0±107.33

Ad.

193.6±4.08  

54.0±2.00  

33.1±1.62

39.0±0.91 

755.0± 59.92


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