ロシア極東マガダン周辺における標識調査

茂田良光・米田重玄・深井宣男・山田真司・田中史雄

 ロシア極東のマガダンMagadan市(北緯59度35分,東経150度55分)はオホーツク海北部沿岸のほぼ中央に位置し,マガダン州の中心として栄えた港湾都市である。ここにはロシア科学アカデミーに所属する北方生物諸問題研究所(IBPN: Institute of Biological Problems of the North)があり,昨年の日本鳥類標識協会大会において記念講演をされたアンドレエフ博士(Dr.Alexandre V. Andreev)が鳥類部長を勤めている。今夏,演者らは8月上旬にマガダンを訪れ,コリマ川最上流域を含むマガダン周辺において標識調査を行うことができたので,ここに概要を報告する。現地調査にはアンドレエフ博士をはじめとするIBPNのスタッフに全面的な御協力をいただいた。調査予算の一部は,自然保護基金からの助成によるものである。記して感謝の意を表する。
 調査は2006年7月30日に出発し,8月12日に帰国した。マガダンにはハバロフスクからの直行便で行くため,往復ともハバロフスクに一泊しなければならない。このため,約10日間の調査の実施には現地での準備等を含め今回のように2週間が必要である。
 2006年8月1日から10日まで自動車で移動して以下の4か所で調査を行い,結果は合計31種298個体(ほかにリピート3個体)を標識放鳥することができた。しかし,注目していたカシラダカを放鳥することはできなかった。
(1) 8月1日はヤナJana川河口付近でハマシギ1個体の放鳥である。すでにハマシギの渡りがはじまっており,まだ完全には飛ぶことのできない幼羽が生えそろっていない個体を1枚の網(CTX)で捕獲した。この繁殖地は昨夏の調査で見つけた場所であり,オホーツク海沿岸の亜寒帯不連続ツンドラ(沖津,2002)にある。当地で繁殖する亜種は,まだ越冬地が不明なCalidris alpina kistchinskiである。
(2) 8月2日の午後に出発し途中のアトカAtka北部のコリマKolyma川源流部で1泊し,3日から5日の午前中までセイムチャンSeymchan近郊のコリマ川中流域で調査を行った。チフチャフ23個体を含むムシクイ類4種42個体,合計15種94個体(ほかにリピート2個体)を放鳥した。
(3) 8月5日の午後から7日まで8月2日に1泊したアトカ北部のコリマ川源流部で調査を行い,11種37個体を放鳥。ビンズイ7個体,幼羽を含むムジセッカ11個体,コホオアカ6個体,シベリアジュリン幼羽1個体を放鳥できた。
(4) 8月8日から10日までスプレイナヤSplaynaya村付近のホシンHosin川で調査を行い,ビンズイ21個体,センニュウ類3種7個体,ムシクイ類5種42個体,オジロビタキ18個体,アオジ16個体を含む25種155個体を放鳥。幼羽の残るムシクイ類を調査できた。

 今回の調査において,マガダン周辺のシマセンニュウには昨夏に調査したタランTalan島の個体群と同様に明瞭な縦斑があり,シベリアセンニュウとの識別は非常に難しいことが判った。シマセンニュウとシベリアセンニュウは同種の別亜種とされたことがあるが(Vaurie, 1959),両種の分類には今後の研究が必要である。6種のムシクイ類を調査できたが,幼羽は,どの種も上面が灰色がかっていることが確認できた。なお,2005年7月下旬のマガダン周辺の調査において春国岱で放鳥された青色フラッグの付いたキアシシギ1個体がオホーツク海沿岸のシロカヤShirokaj川河口で観察されたが,今夏も同地で春国岱で放鳥のキアシシギが観察され撮影することができた。また,昨夏のオナガガモ1個体に続き,今夏も瓢湖と埼玉鴨場で放鳥されたオナガガモ4個体の回収足環を得ることができた。マガダン周辺からは,多くの鳥種が日本に渡来することが予想される。



もどる